【阿比留瑠比の極言御免】尖閣「生き証人」のうさん臭い告白
野中広務元官房長官と鳩山由紀夫元首相の姿が、ぴたりと重なってみえる。
尖閣諸島(沖縄県石垣市)を「侵略しに来ている」(外務省幹部)中国へと、のこのこ出かけ、相手の意向に沿った発言をするところなど、そっくりである。
「自民も民主もOB議員によるOB(コース外にそれた打球)には本当に困りもの。OB杭(くい)の向こう側には、巧妙な外交的落とし穴が隠されているのだ」
民主党の長島昭久氏は4日、自身のツイッターにこう書き込んだ。
尖閣諸島をめぐり「領有権問題棚上げの日中合意があった」と発言した野中氏と、「日中間の係争地」と述べた鳩山氏を指すのは明らかである。
論点はそれぞれ違うが、ともに日本政府の公式見解を否定し、自ら進んで中国のわなに飛び込んだ形だ。
思えば鳩山氏は今年1月、南京大虐殺記念館を訪ねて改めて謝罪した。これも平成10年5月、自民党幹部(幹事長代理)として初めて公式に同館を訪問した野中氏と軌を一にする。
「当時のことを知る生き証人として、明らかにしたいという思いがあった」
野中氏はこう語るが、どうもうさん臭い。
野中氏によると、昭和47年9月の日中国交正常化から間もないころ、箱根で開かれた自民党田中派の研修会で田中角栄首相(当時)から直接聞いたことだという。
だが、現職の首相だった田中氏が、当時は一介の京都府議だった野中氏(衆院初当選は58年)らに重大な「国家機密」を漏らすだろうか。
研修会で語られた話が、今回の証言まで一切表に出なかったというのもあまりに不自然ではないか。
筆者は、野中氏が自分の主義・主張を通すために論点を誇張したり、事実関係を無視したりする場面を何度も見聞きしてきた。
「君らと違い、戦争を知る世代として言うが…」
野中氏は現役時代、若手政治家らの外交・安全保障に関する自由な議論を、この一言で封じてきた。
2001年の米中枢同時テロに際し、海上自衛隊のイージス艦派遣が浮上した際には、講演や派閥(橋本派)会合などで強硬に反対論陣を張った。これについて閣僚経験者は振り返る。
「野中さんは1隻約1200億円のイージス艦を『5千億円する』と言ったり、『戦前の戦艦大和に当たる』と言ったり、めちゃくちゃだった。
イージス艦は対空探知能力、自己防衛能力に優れている以外は他の艦船と変わらない」
また、その後に自衛隊が首相官邸や原発など重要施設を警備できるようにする自衛隊法改正が検討されたときには、
「警察への侮辱だ」「国民に銃を向けるのか」などと非論理的な感情論で、これをつぶした。
自民党幹部は「野中さんにはあの世代特有の、社会党的、情緒的な平和主義がある」と指摘する。
だが、米国の核の傘の下で安穏としていられた冷戦期ならばともかく、現在の厳しい国際情勢では通用しない。
第一、棚上げするも何も、中国は国交正常化から20年後の1992年に施行された領海法で、尖閣諸島を新たに自国領と明記した経緯がある。
この時点ですでに「棚上げ論」は、歴史的にも政治的にも完全に破綻しているではないか。(政治部編集委員)
http://sankei.jp.msn.com/politics/news/130606/stt13060608300001-n1.htm http://sankei.jp.msn.com/politics/news/130606/stt13060608300001-n2.htm