「われわれはもっと自信を持っていい。日本経済の復活と中国経済の凋落、これが今後の東アジアの趨勢となるでしょう」
こう断言するのは、現在、新著『パッシング・チャイナ』がベストセラーになっている熊谷亮丸氏だ。
だがこの日本の復活を、快く思わない国がある。その筆頭は、隣の大国・中国だ。
3月5日には、中国で最も人気の高い経済学者の郎咸平・香港中文大学教授が、次のように日本を批判した。
「釣魚島(尖閣諸島)の争議がまだ収束していないというのに、今度は日本発の"通貨戦争"が始まった。G20の中で過去5年間、通貨を安くしていないのは、
中国、カナダ、オーストラリア、サウジアラビアの4ヵ国だけだ。ところが中国以外は資源大国なので、製造業中心の中国だけがババを引いているようなものではないか。
だから釣魚島問題に続き、安倍政権が繰り出してきたこの不当な通貨戦争に対しては、反対の声を上げるべきなのだ」
大手証券会社の中国宏源証券の陳旭敏債券部長も同日、舌鋒鋭く日本を批判した。
「いまや世界経済を混乱させる最大の要因は、財政削減を義務付けられたアメリカでも、政府債務に苦しむEUでもなく、アベノミクスとやらを始めた日本だ。
アメリカとEUは、経済危機を緊縮財政によって乗り切ろうとしているが、日本だけは逆に、拡大財政によって乗り切ろうとしている。
しかも安倍政権が進めようとしているのは、まるで非常識な規模の財政拡大路線だ。
われわれがアベノミクスをこのまま野放しにしておけば、東アジアは1997年の金融危機の再来となるであろう」
在北京ジャーナリストの胡小兎氏が語る。
「習近平・李克強新政権が発足するや、国を挙げて反アベノミクス・キャンペーンを展開するでしょう。領土問題プラス為替問題の二段構えの攻撃です」
だが、前出の熊谷氏によれば、こうした動きは、中国の経済が失速していくことに原因があるという。つまり、自国の経済失速を日本に転嫁するというわけだ。
「日本のアベノミクスと関係なく、中国経済は賞味期限切れが近づいているのです。私は『5つのリスク』と呼んでいます。
第一に一人っ子政策による少子高齢化です。中国の人口ボーナス(生産年齢の割合)は2010年をピークに低下しています。
第二に一党独裁の崩壊です。近未来の財政赤字の悪化が政治リスクを増大させていく気配です。
第三に不動産バブルの崩壊です。不動産価格の上昇に依存したいびつな経済が、ひとたび歯車が逆回転するとスパイラル的に悪化するのは、
日本のかつてのバブル崩壊と同様です。第四に設備の過剰です。中国の製造業の生産設備の利用率は6割にすぎません。
五番目は、賃金インフレの進行です。賃金のこのところの驚異的な上昇で、労働集約型の製造業が成り立たなくなってきています。
日本には、こうした先行きの見通しが悪い中国にオサラバする時代、すなわちパッシング・チャイナの時代が、遠からず訪れるのです」
アベノミクスに憤っているのは、隣の韓国も同様だ。在ソウル・ジャーナリストの金哲氏が解説する。
「3月に入って、アベノミクスを"円安空襲"と呼んでいます。3月1日に知識経済部が発表した2月の貿易統計で、
輸出は前年同月比マイナス8・6%という信じられない数値が出ました。1月はプラス10・9%だったので、まさに晴天の霹靂です。
続いて2日には韓国観光公社が、円安ウォン高の影響で、2月の日本人の訪韓観光客が、前年同月比でマイナス20%だったと発表。
翌3日には、現代自動車と起亜自動車の2月のアメリカ市場での販売台数が、前年同月比マイナス2・5%という統計が発表されました。
韓国は2月25日に朴槿恵政権が発足したばかりだというのに、アベノミクスは祝賀ムードに水を差す許せない政策だという評価なのです」
(続く)
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