中央公論 2010年11月号(10月9日発売)
http://www.chuokoron.jp/2010/10/11_1.html 外交敗戦!!
尖閣衝突の先にある東シナ海十一月危機 勝股秀通
なぜ、中国は尖閣諸島の領有について極めて執拗、かつ強い執念を見せるのか。
周辺の海底に豊富な石油資源が存在する可能性が高いこともあるが、それ以上に、
中国が採用する「近海防御戦略」にとって欠かすことのできない戦略的要衝だからだ。
中国は、日本列島から沖縄・南西諸島、台湾を経てフィリピンに至る「第一列島線」内を
最重要防御海域と定め、伊豆半島から小笠原諸島、グアム、サイパンに至る「第二列島線」
との間で接近阻止(アンチ・アクセス)戦略を採用している。第一列島線から第二列島線
までの間で潜水艦や水上艦で待ち受け、第二列島線を越えて西進してきた敵に対しては、
弾道ミサイルや巡航ミサイルで攻撃する。そのためには、尖閣や南西諸島の存在は極めて
都合が悪く、防衛省幹部は「中国は、離島を無力化するため、最終的には占領、軍事基地化
まで想定している」と指摘する。
なかでも最大の魚釣島は東西約三・五キロ、南北約一キロメートル前後で、三〇〇人規模
の守備隊の配置が可能で、弾道ミサイルや、対艦・対空ミサイルの陣地としての価値は
極めて高い。たとえば、台湾に向けて配備されている弾道ミサイルや対艦・対空ミサイル
の射程は百五十〜五〇〇キロメートルで、それを運び込まれたら、宮古島や石垣島、
沖縄本島までが射程内に入り、周辺海域の行動は大きく制約される。また、最大標高
約三五〇メートルの丘陵にレーダーを設置すれば、半径六〇〇キロメートルに及ぶ海空域
を監視範囲とすることが容易だ。軍事戦略が専門の中国人研究者は、香港紙のインタヴュー
に「尖閣(中国名・釣魚島)が完全に日本の手に落ちれば、中国の海洋戦略は急所を
突かれるに等しい」と、戦略的な意義を強調している。
(略)
改めて、中国が採用する近海防御戦略を考えてみる。彼らは沖縄・南西諸島を第一
列島線と名付け、自分たちの防衛ラインに組み入れているが、中国が一本の線で示す
九州以南の南西諸島には一九〇もの有人島があり、そこには十五〇万を超す日本人
が暮らしていることを忘れてはならない。防衛省幹部が指摘するように、中国が
第一列島島を死守するため、第二列島線までの海空域で作戦を遂行しようとするならば、
まず初めに尖閣諸島のような無人島を奪取し、その後、南西諸島を占領するなりして、
周辺の制海権と制空権を掌握しなければならない。逆に言えば、日本が尖閣諸島を
守るということは、与那国島までの国民と国土を守りきる意志と行動力があるか、
その決意が問われているということだ。