日韓スワップ打ち切りで韓国に報復できるか
韓国は中国に外貨支援を依頼して対抗?
鈴置 高史
2012年8月21日(火)
http://business.nikkeibp.co.jp/article/report/20120820/235788/ (1)なぜ、「打ち切り論」が急浮上?
李明博大統領の「日王(天皇陛下)への謝罪要求」を期に、日本ではスワップ打ち切り論が一気に表面化した。
それまで、竹島訪問の後も、日本の財務省はスワップを韓国への報復に使うことに消極的だった。
1997年のアジア通貨危機以来、自らが主導してこの地域で作り上げてきた「通貨の安全保障の仕組み」に
ヒビを入れたくない、との思いからだ。しかし、謝罪要求により日本の世論がさらに硬化すると財務省も国民からの
批判を恐れ最後は折れた、と関係者は明かす。
自民党の閣僚経験者も15日夜「選挙の時期にもよるが、韓国とスワップに関し話し合うことになるだろう」と
日本経済新聞記者に語った。弱腰の民主党はいざ知らず、10月にも予想される総選挙で自民党が与党に
復帰すればスワップを報復の武器に活用する、という意味だ。
この大物代議士は自他共に認めるアジア派だ。しかし今年2月、すでに「(スワップを結んだら即座に手のひらを
返し、決着済みの従軍慰安婦の保障を再び要求してきた)韓国に対し、スワップは半分に減らすべきだ」と公開の席
で語っていた。民主党への攻撃材料として“底の浅い融和外交”をも理由にし始めていたのだ(「韓国が脅える
『政権末期の経済危機』」を参照)。
(2)韓国はなぜ強がりを言うのか?
韓国政府は「過去と同様に、日本は今回も政治的争いに経済を絡めてくることはない」と楽観していたフシがある。
16日夜まで韓国記者に対してもそう説明していた、という。
日本とのスワップがなくなっても困らない
その一方で韓国政府は「日本とのスワップがなくなっても困らない」と宣伝し、対日牽制に乗り出していた。
同日の韓国メディアのネット版の記事の見出しは「日本が通貨スワップを中断しても衝撃は微々たるもの」
(朝鮮日報)、「韓日関係行き詰り 資本市場への影響は微々」(聯合ニュース)。
この報道を知った日本政府幹部は喜んだ。「誠に結構」。影響がないと韓国が言うのならスワップ打ち切りに
文句を言わせない。もし、延長に関し韓国から不要と言ってくるのなら手間も省ける。それに韓国が自滅しても、
後で「日本のために危機に陥った」と文句を言われない――というわけだ。
韓国の「日本のスワップ不要論」は強がりばかりではない。本気でそう考えている人も多い。2011年10月19日に
日韓スワップの増額が決まった時、青瓦台(大統領府)は面子を保つために「韓国は外貨に困っていないのだが、
日本がスワップを結んでくれと頭を下げてきたので結んでやった」とレクチャーし、ほとんどのメディアがそのまま
報じたからだ。
最大手紙、朝鮮日報の宋熙永・論説主幹は自身のコラム(10月22日付)で「これで通貨危機に陥る可能性は
20%以下に減った」と率直にスワップの効果を評価した。しかし、こうした冷静な記事は少数だった。
ちなみに世界の市場関係者の見方は「米韓首脳会談で李明博大統領がオバマ大統領にスワップを頼んだものの
断られ、急きょ1週間後の日韓首脳会談で日本からスワップの約束を取り付けた」である。
(7)韓国はどうしのぐ?
ただ、日本が通貨スワップ打ち切りを検討し始めたことが明らかになった後も、韓国ウォンは動揺していない。
理由は2つ。日本は「おとなしい国」と思われており、本当にスワップを打ち切るのか市場が疑っていること。
2つ目は「韓国危機」がまだ、懸念の段階にあることだ。
貿易はまだ黒字だし、不良債権問題も表面化していない。外資は「韓国がきな臭くなってきたな」とは考えて
いるものの、逃避の引き金となる信号弾は上がっていないのだ。
こうした状況から見て、日本は韓国経済の地合いが悪くなっていくのをにらみながら、時々スワップ打ち切り
を匂わせ、韓国政府に孤独なウォン防衛戦争を強いる作戦に出るのではないか。
輸出額の積み増しや中国からの支援でしのぐか
もちろん、韓国も必死で対抗策を打つだろう。注目を集める貿易統計に関しては輸出額を“粉飾”して黒字を
維持する手口がある。例えば、自動車メーカーや製鉄会社に増産させ、それを海外子会社の在庫として
持たせれば、統計上は輸出と黒字が増加する。
外貨繰りに関しては、信用力の高い製造業に円建て債を発行させ、日本で外貨の確保に乗り出せばいい。
2011年秋にも韓国はこの手を使った。
それで足りなければ中国にスワップの増額を頼みこむ、あるいは米国に新たにスワップを結んでくれるよう
哀願すればいい。中国は人民元の影響圏拡大につながるため、恩着せがましい態度を見せつつも最後は
応じる可能性が高い。
(抜粋)
韓国が脅える「政権末期の経済危機」
貿易黒字が急減――日・中との外交摩擦もリスクを加速
鈴置 高史
2012年3月6日(火)
http://business.nikkeibp.co.jp/article/report/20120305/229443/ 少子高齢化の韓国、ついに日本型デフレ突入か
成長率も14年ぶりに日本を下回る?
鈴置 高史
2012年8月9日(木)
http://business.nikkeibp.co.jp/article/report/20120808/235430/