マイケル・ルーマーさん(57)は2010年まで外国で暮らしたことがなかった。この年、ルーマーさんは
弁護士の仕事を1年休職し、米カリフォルニア州オリンダにある自宅を貸し、家族と一緒に中国
西部の成都市に移り住んだ。
ルーマーさんの目的は2人の子どもたち(エリンちゃんとコナー君)に中国での暮らしを体験させ、
今最も学習しておくべき言語に急速になりつつある中国語に触れさせることだった。ルーマーさんは
「中国語を話すのは重要だ」と語る。
欧米諸国では今、子どもに中国語を学ばせるために中国へ引っ越す家族が増えている。ルーマー
さん一家もそうだ。中国の世界に対する影響力の強まりを背景に、親は子どもたちに13億の中国人と
流ちょうにコミュニケーションをとってほしいと考えている。同じような現象は80年代にも起こった。当時、
日本経済が急成長し、日本語学習熱が高まった。
しかし今回は放課後のレッスンだけでは飽き足らない人がいるようだ。そういった人は西海岸から
東海岸まで雨後のタケノコのように生まれている中国語プログラムに子どもたちを通わせている。また
家庭教師を雇い、北京の講師とスカイプで会話し、中国語を話すナニー(子どもの面倒をみる女性)
をリクルートし、さらに子ども部屋を中国語バージョンのディズニービデオで満たしている。iPhone
(アイフォーン)の中国語アプリは言うに及ばずだ。
採用担当者は中国語能力のある求職者は有利だと話す。ロサンゼルス本拠の経営幹部リクルート
会社、コーン・フェリー・インターナショナルのシニア・バイス・プレジデント、マイケル・ディステファノ氏は
「中国語を話す人は(米国には)少ないので、話せれば有利かと聞かれれば、答えはイエスだ」と言う。
ディステファノ氏自身の息子も中国語を高校で学習中だ。将来、アジア圏で働くことも視野に入れての
ことだ。
中国語は学習するのがとても難しい言語だ。音の高低で意味が違ううえ、流ちょうになるには数千もの
漢字を覚えなければならない。米国務省の外務職員局によると、十分な中国語能力を習得するには
2200回授業を受け、しかもその半分は実際に中国で受ける必要があるという。一方、スペイン語は
600〜750回の授業で習得可能という。
教育関係者は中国語を学習する正しい方法があるわけではないと指摘する。サンフランシスコにある
チャイニーズ・アメリカン・インターナショナル・スクールのジェフ・ビッセル校長は、中国語の指導法は
メトリクスと基準ができあがってくるのに伴って「進化している」と話す。中国語を学習させるために中国へ
学生たちを行かせることをビッセル氏は称賛する。
中国から帰国した後のことはまた別の話だ。ジム・キャシェルさんと妻のアン・チンさん(中国系アメリカ人
4世、中国語学習経験なし)は2人の娘を連れて2009年にカリフォルニア州ソノマから成都市へ移り住んだ。
目的は中国語の習得と、中国での生活体験だった。
翌10年にソノマへ戻ってから、チンさんと上の娘は中国語能力を維持するため、定期的に成都市の講師と
スカイプを使って会話をしている。しかし、それ以外には中国語の実地練習ができる機会がない、とチンさんは
言う。「あと10年、これを続けるしかないというのが現状」だという。
THE WALL STREET JOURNAL: 2012年 6月 27日 17:24
http://jp.wsj.com/Life-Style/node_468229?mod=WSJSeries