∞白兎海岸 北朝鮮兵?遺体漂着 身元確認 手詰まり
鳥取市の白兎海岸に昨年12月30日、男性の遺体が漂着した。北朝鮮の軍服とみられる衣服を着
用していたことから、県警は、男性が北朝鮮の兵士の可能性もあるとみているが、北朝鮮と国交が
ないことから2か月近くなっても身元を確認する手段がなく、手詰まりの状態だ。遺体は行旅死亡人
として荼毘(だび)に付され、同市内の寺院で安置されたままで、一人の遺体を巡って「近くて遠い国」
の現実が浮かび上がる。
(松田卓也)
遺体は30日午後3時30分頃、観光客が同海岸で見つけ、連絡を受けた近くの観光施設の男性
職員(43)が110番した。男性職員は「遺体は砂浜から約10メートルの波打ち際を漂流し、鳥取
署員が駆けつけた頃には浜に打ち上げられていた。遠くから見ると釣り人にも見えた」と振り返る。
だが、捜査関係者によると、遺体は緑色のコートを着て、迷彩ズボンをはいていた。コートのボタ
ンには北朝鮮の軍服にみられる赤い星のマークが付いており、コートのポケットには、ハングルが
書かれた新聞紙片なども入っていたという。
県警は遺留物から北朝鮮から漂着した可能性が高いと判断したが、兵士の階級章などが見当た
らないことから、断定できる要素がないとして公表を控えた。一方で、「兵士の可能性があり、続け
て漂着する恐れもある」として数日間、県内の海岸線の監視を強化した。
北朝鮮からの遺体が漂着した過去の事例では、遺体を返還するまで多くのハードルを越えなけれ
ばならなかった。1999年1月22日、同市浜坂の砂丘海岸に軍服姿の遺体が漂着。遺体は98年
12月から福井、島根各県に相次いで漂着した4遺体と同じく船で遭難した北朝鮮兵士だと断定
された。
これらの遺体は、漂着した各自治体で安置。その後、北朝鮮から返還を求められたが、身元を
特定する材料が乏しいため漂着先の一つ、福井県高浜町は厚生省(当時)に問い合わせたが、
同省からは「自治体の判断に任せる」としか回答がなく、結局、各自治体は遺留品の乗員名簿と
日本赤十字社が北朝鮮から取り寄せた名簿が一致していることを根拠に、99年3月までに朝鮮
総連各県本部を通じて返還した。
白兎海岸で見つかった遺体は現在、目立った外傷などがないことから事件性がないとして、鳥取
市が行旅死亡人として扱い、市内の寺院で供養されている。過去の事例と異なり、北朝鮮から返還
要請などがないことが課題になっている。
鳥取市の担当者は「引き渡しだけでも時間がかかるのに、仮に返還を求められても確認作業も
加われば、いつ返還できるのか全く想像出来ない状況だ」と懸念する。
また、朝鮮総連県支部も、遺体の身元が断定されていない状況で独自の確認作業や北朝鮮への
連絡はできないと困惑。北朝鮮から行方不明者の照会があることはなく、「現状ではどうすることも
できない」としている。
北朝鮮情勢に詳しい関西大学の李英和(リヨンファ)教授(朝鮮経済論)は「国交のない両国でも、
それぞれの大使館がある中国などで引き渡しなどに関する交渉の余地はある。今後、北朝鮮の
体制が不安定化し、脱北などが相次げば、こうしたケースが増える可能性もある」と指摘している。
■行旅死亡人 自殺や行き倒れなどで、氏名や住所などの身元が分からず、引き取り手のない
死者を示す。屋外に限らず、独居死で身元が判明しない事例もある。遺体が見つかった場所の
自治体が火葬した上で、遺体の特徴などが官報に掲載される。鳥取市の場合、年間1、2人程度
という。
ソース:YOMIURI ONLINE 2012年2月15日
http://www.yomiuri.co.jp/e-japan/tottori/news/20120214-OYT8T01150.htm