∞[FT]タクシン元首相恩赦は危険な迷走(社説)
∞2011年12月19日付 英フィナンシャル・タイムズ紙)
タイのタクシン元首相は、汚職罪での服役を拒み、ほぼ2年間、タイ国外での逃亡生活を続けてい
る。しかし、先月になり実妹のインラック新首相率いる現政権がタクシン氏の帰国の実現を計画して
いるとの憶測が強まった。
■帰国すれば対立再燃の恐れ
タイ外務省は先週、2年前に無効とした旅券をタクシン氏に再交付したことを認めた。これはある面
では象徴的意味しか持たない。タクシン氏は、すでにモンテネグロやニカラグアなど他国の旅券を所
持しており、自由に移動できる身だ。しかし毎年恒例の国王恩赦にタクシン氏を含めるか否かを巡り、
先月に論争が起こった直後だけに、旅券の再交付は政権の意図に対する疑念を呼んだ。
インラック首相がタクシン氏帰国に向け動くようなら軽率な判断と言わざるを得ない。タクシン氏は、
農村部の貧困層には圧倒的な支持を誇るが、軍と保守派のエリートからは激しく嫌われる国を二分
する存在だ。先月も、恩赦の憶測だけでタクシン氏の支持勢力と反対勢力の双方が街頭に繰り出す
騒ぎに発展した。タクシン氏が帰国すれば、2006年の軍のクーデターで同氏が首相の地位を追われ
て以来、タイの政治を傷つけてきた激しいイデオロギー対立が再燃する深刻な恐れがある。
■経済立て直しに全力を
実際、インラック首相には考えるべきもっと重大なことがらがある。新政権はいくつもの重要課題に
直面している。特にタイを長期に渡りむしばんできた深刻な汚職の根絶は緊急の課題だ。国内でも
っとも著名な逃亡犯の特別扱いは、その手始めの政策としてふさわしくない。
しかしインラック首相の最大の課題はこの半世紀で最悪の洪水に見舞われたタイ経済の立て直しだ。
10月の大洪水の死者は600人を超え、数千の工場が被害を受け第3四半期の経済成長率を約1%ポイ
ント引き下げた。インラック政権は、この大災害に際して十分に連携した対応が取れなかったと広く批判
された。復興過程で同じ過ちを犯すことは許されない。
洪水前ですらタイは重大な経済問題に直面していた。農村地帯には貧困がまん延し、インフレは脅威
である上、福祉政策は混乱している。現在はそうした課題がさらに膨らんだ。それらに立ち向かうことが
政権の基盤を強化することにつながる。タクシン氏を復帰させることはそれに逆行するだろう。
ソース:日本経済新聞電子版 2011/12/19 14:00
http://www.nikkei.com/news/category/article/g=96958A9C93819584E3EBE2E2E08DE3EBE3E0E0E2E3E3E2E2E2E2E2E2;at=DGXZZO0195570008122009000000 画像:ネパールのルンビニを訪問したタイのタクシン元首相=中央=(12月17日)=AP
http://www.nikkei.com/content/pic/20111219/96958A9C93819584E3EBE2E2E08DE3EBE3E0E0E2E3E3E2E2E2E2E2E2-DSXBZO3740088019122011000001-PB1-2.jpg