福島第一原発の放射能漏れ事故をめぐり、
日本政府の対処や情報発信に国際社会で不満が高まっている。
日本政府が定めるより広範な区域から自国民の退避を求める国が相次ぐなど過剰ともいえる国際社会の反応は、
事態収拾に向けた日本政府の決意や能力に対する不信感の表れといえる。放射能汚染拡大の危機を食い止めるには
米国をはじめ国際社会の協力が欠かせず、そのためにも正確な情報発信を通した信頼回復が急務だ。
◆自国民に退避勧告◆
米政府の日本政府に対する不信感を象徴しているのが、各原子炉の被災状況について
詳細データの提供を受けられないという米国の不満だ。
日本政府筋が18日明らかにしたところによると、米国は地震発生直後から、国務省や国防総省など複数ルートを通じ
「1979年のスリーマイル島原発事故の経験に立ち、正確なデータがあれば、日本の効果的な対策に協力できる」
と伝えてきた。しかし、日本側は米国の期待にとても応えられていない。
同筋は「米国からは情報提供が乏しいとの怒りの声が伝わっている」と肩をすくめる。
日米の関係がこのようにこじれている陰には、日米同盟を揺るがせた民主党政権下で、両国間のパイプが
細り円滑な意思疎通が困難になっている実態がある。1号機で水素爆発が起きた12日、日本政府が何時間も事実を
公表しなかった不手際も疑心暗鬼に拍車をかけた。それが放射能拡散の可能性への過剰な備えにもつながっている。
米政府が、日本国内にいる米国人に半径50マイル(約80キロ・メートル)の
範囲からの避難を勧告したのも過剰な備えの例といえる。
日本政府の屋内退避要請は同30キロ・メートル、避難指示は同20キロ・メートルの範囲にとどまっている。
事態収拾に向けた日本政府の指導力に対する疑念も避難の範囲を広げておこうとの意識につながっている可能性がある。
欧州諸国やオーストラリアなどが広い範囲での退避勧告に踏み切ったのは、米国に追随していれば安心との
判断からとみられる。「情勢は不安定でこの先の見通しが立たない」(豪州のラッド外相)との不安も過度な
退避行動に駆り立てている。英国政府は自国民に、「追加的な予防策」として同80キロ・メートルの範囲で
退避を促しているものの、一義的には日本政府の助言に従うことを求めている。
韓国外交通商省も18日、被災地で活動している救助隊員107人の3分の2を新潟に移動させたことを明らかにした。
それでも枝野官房長官は18日、「(日本政府は)今の時点で把握しているデータと専門家の分析に基づき、
必要な措置を判断している」と強調した。国際原子力機関(IAEA)の天野之弥事務局長は18日、
日本政府の判断は「IAEAの基準に沿っている」と述べ、各国が極端に用心深くなっていることを裏付けた。
天野事務局長はIAEAの専属チームを発足させ、東日本各地の放射線量測定に
着手する方針も示した。独立したデータを示し、各国の不安を静める狙いもある。
◆受け入れ態勢不満◆
各国の不満は情報開示だけでなく、救援物資の受け入れ態勢をめぐっても噴出している。
インターファクス通信などによると、ロシア政府は16日からイリューシン76型機を2機、極東のハバロフスク、ブラゴベシェンスクの
2空港で出動待機させた。医薬品や毛布など被災者向けの緊急支援物資に加え、現地で活動しているロシア救助隊用の
燃料や食料を積み、復路では日本に滞在中の自国民を避難させる計画だった。
ところが、日本の空港当局からは周辺の地方空港を含め着陸許可が出なかった。
18日午前(日本時間同日夕)になってようやく1機が成田空港に向けて飛び立ったものの、2日間近い貴重な時間が失われる結果となった。
外交筋によると、「発着枠がいっぱい」との説明だったが、ロシア側が利用を希望した新潟空港は、中国旅客機の臨時便などを受け入れていた。
米国をはじめ国際社会の支援を生かすには、連絡を密にして現状を正しく説明し、不足している機材があれば
素早く受け入れを決める必要がある。首相官邸、経済産業省原子力安全・保安院、東京電力や、自衛隊、消防庁、警察庁は
相互の情報交換を徹底して透明な情報発信を図る必要がある。
(政治部 古川肇、ワシントン 山田哲朗、モスクワ 貞広貴志、クライストチャーチ 岡崎哲、ソウル 門間順平)
ソース:(2011年3月19日01時32分 読売新聞) 日本の対応、各国に不安…正確な情報発信必要
http://www.yomiuri.co.jp/world/news/20110319-OYT1T00097.htm