かつて軍事政権下で国はさまざまな名分を掲げ、多くの国民を理不尽な形で違法に迫害
したが、その被害を受けた当事者に支払うべき賠償金の額が、今になって問題となっている。
これについて大法院(最高裁判所に相当)は先日、「被害者たちに慰謝料を支払う際、
合理的な理由のない限り、過度に巨額を支払うべきではない」との判断を下した。その理由
について大法院は、「事件は数十年前に発生したため、その被害者に支払う賠償金や慰謝料を
計算するに当たっては、基準とすべき物価や国民所得のレベルをいつのものにするか決め
なければならない。1審と2審では事件当時でなく現在のレベルを基準としたが、これでは
元金も利子もあまりに巨額となってしまうため、甚だ合理性を欠いている」と説明した。例えば、
1961年に死刑が執行されたチョ・ヨンス民族日報社長の遺族10人が国を相手取って起こした
訴訟で、大法院は元金29億5000万ウォン(現在のレートで約2億1900万円、以下同)と、その
利子として69億8000万ウォン(約5億1900万円)を合わせ、総額99億3000万ウォン(約7億38
00万円)の賠償を命じた2審の判決を破棄し、利子を1億ウォン(約740万円)と計算した上で、
総額30億5000万ウォン(約2億2700万円)の賠償を命じた。
維新政権(朴正煕〈パク・チョンヒ〉政権)や第5共和国(全斗煥〈チョン・ドゥファン〉
大統領を中心とした軍事政権体制)の時代に捜査機関から理不尽な拷問や懲役刑を受けながらも、
再審で無罪を勝ち取った当時の被害者やその家族たちは、これまで54件の裁判で総額3500億
ウォン(約260億円)の賠償を請求した。その結果、これまで行われた1審や2審などでは、
数十億ウォン(10億ウォン=約7430万円)から数百億ウォン(100億ウォン=約7億4300万円)の
賠償を国に命じる判決が相次いで下されている。例えば1974年に起った人民革命党事件に関する
第1次裁判では、当時事件に関係したとされる46人の原告に637億ウォン(約47億4000万円)を
支払うよう国に命じる判決が下され、同じく第2次裁判の原告67人には635億ウォン(約47億
2000万円)、第3次の10人には125億ウォン(約9億2900万円)の賠償を支払うよう、国に命じる
判決が下された。また全国民主青年学生総連盟(民青学連)事件(1974)の場合、当時の関係者と
される第1次裁判の原告151人には520億ウォン(約38億7000万円)、第2次の31人には71億ウォン
(約5億2800万円)の賠償を支払うよう、国に命じる判決が下された。暗い過去の時代にさまざまな
迫害や苦難を受けた被害者たちに、たとえ事件から数十年が過ぎたとしても、国がそれなりの
賠償を行うのは当然のことだ。当事者にとっては自らの貴重な人生が根本から奪われたのだから、
その賠償額がいくらだったとしても、決して満足することはできないだろう。
しかし賠償額を決めるに当たっては、法律や現実の経済事情だけでなく、一般的な常識も反映
させる必要があるはずだ。この種の裁判でこれまで非常に高額の賠償判決が相次いで下されて
きたのは、被害者家族への慰謝料を現在の貨幣価値を基に算定し、それに事件が起ったときから
数十年間の利子を計算してプラスするという方法が1審と2審で行われてきたからだ。これに対して
大法院は、違法行為が起った時から裁判が終了するまで数十年の長い年月がかかった場合、利子
算定の基準日を違法行為が起こった日ではなく、裁判が終結した日から計算するのが合理的と判断した。
独裁政権下で民主化運動に献身した被害者やその家族たちに対し、国民は誰もが心の中で負い目を
感じている。しかし賠償額が非常に高額となり、それがにわかに納得できないほどとなれば、国民も
違和感を持つだろうし、また被害者とその家族の犠牲も、本来の価値が失われてしまうのではないだろうか。
朝鮮日報/朝鮮日報日本語版 【社説】国による過去の事件への過剰賠償は望ましくない
http://www.chosunonline.com/news/20110115000008