中国との関係を深めるロシアだが、極東では“膨張する”隣国への警戒が膨らむ。08年に決着した国境画定
交渉で領土の一部を割譲したハバロフスク地方では、住民は複雑な対中感情を抱いている。
【ハバロフスクで大前仁】
http://mainichi.jp/select/world/news/images/20101111dd0phj000007000p_size5.jpg 「中国に島の西部を取られた。そのうち全部失うかもしれない」。ハバロフスクの対岸にある大ウスリー島
(中国名・黒瞎子島)に農場を持つ株式会社「ザリャ」の幹部アレクサンドルさん(45)が話す。土地の譲渡
に先立ち、ロシア政府は昨年までに同社の所有地46平方キロを強制収用した。だが、見返りの補償金はまだ
支払われていないという。
ロシアはタラバロフ島(中国名・銀竜島)全島も中国へ譲り渡し、二つの島を合わせて70人以上の住民が土地
と家を失った。アレクサンドルさんは「責任はロシア政府にある」と言いながら、急に隣人となった中国に対
する不安を隠さない。
■空港開設に着手
http://mainichi.jp/select/world/news/images/20101111dd0phj000005000p_size5.jpg ハバロフスク最大のビボロク市場には中国食料店も多く出店している=ロシア極東ハバロフスクで
ハバロフスク最大のビボロク市場には中国食料店も多く出店している=ロシア極東ハバロフスクで 交渉で
ロシアは、大ウスリー島西部のロシア正教礼拝堂を自国領として残すことに成功した。しかし、陸路では中国
領を通らないと礼拝堂へ行けない。しかも多くの住民はそのために必要な越境通行許可書を持たない。やむを
えず対岸から船で礼拝堂の近くまで渡航するなど、不便が生じている。
一方、19世紀半ばに失った領土を回復した中国はタラバロフ島で空港開設に着手。中国側の大ウスリー島と
中国本土を結ぶ橋の建設も始め、島の開発に並々ならぬ意欲を示す。ただ一般の中国人が大ウスリー島へ入植
している様子はない。「急に国境ができたが、隣に中国があるという実感はわかない」(29歳のロシア人男性)
との声もある。
中国側に触発され、ロシア側も来年から大ウスリー島とロシア本土を結ぶ橋の建設を始める。地元では「島を
通じて多くの中国人がロシア本土に押し寄せるかもしれない」と不安の声も出ている。
■広がる人口格差
http://mainichi.jp/select/world/news/images/20101111dd0phj000006000p_size5.jpg 大ウスリー島ロシア領の国境近くにある「ザリャ」の農地では刈り取が行われていた
ロシア科学アカデミー極東支部経済研究所のミナキル所長は「ロシア人から見れば中国は異質な国。領土交渉
で譲歩したのは安定重視のためだ」と指摘する。
ロシア極東は91年のソ連崩壊前後から、国産品に代わって中国の安い食料や衣料品への依存を強めてきた。
約2500店が入るハバロフスク最大のビボロク市場では「ほぼすべての品物が中国産」(市場関係者)とい
われる。最近はハバロフスク地方で農業を始める中国企業も出ている。
地元の政治家が表だって「中国脅威論」を口にすることはない。昨年まで18年間ハバロフスク知事を務めた
イシャエフ極東連邦管区大統領全権代表(62)は、対中関係について「妻(のような存在)ではないが、隣人」
と例えて、「付き合うのは当然」と強調する。
人口が膨らむ中国の影は日増しに大きくなっている。ロシア極東連邦管区では、過去20年間で人口が約150
万人減少し、現在は650万人程度。だが隣接する中国の黒竜江省の人口は約3800万人に上る。人口で
ロシアを圧倒的に上回る「異質」な隣人への警戒心が、とまどいを呼んでいる。
>>2に続きます
毎日新聞東京朝刊 2010/11/11
http://mainichi.jp/select/world/news/20101111ddm007030074000c.html