【社説】もろい大国と付き合う 日中関係を考える
ハノイで行われるはずだった日中首脳会談のドタキャン騒動は中国との付き合いに不安を強めました。
隣の大国で一体、何が起きているのでしょうか。
東アジアサミットに参加した首脳が顔をそろえた記念撮影で、菅直人首相の隣に立つのを拒む。
首脳会談を直前にキャンセルした中国の温家宝首相の対応には、いささか子供じみたものを感じました。
十三億の大国の指導者は何を恐れているのでしょうか。
翌日に自ら菅首相に近づいて語った言葉にヒントがあるのかもしれません。温首相は「ゆっくりと話す機会を
近くつくりたい」と語りながら、不安定な民意を引き合いに外交に関する発言は慎重にしてほしいと述べたといいます。
外交に発言強める軍
首脳同士が交わした言葉を日本政府は公表しましたが、中国側はあいさつとだけ紹介しました。
温首相の言葉が、国内事情が気になり、会談できなかった本音を漏らしたからかもしれません。
温首相を悩ませていることに中国軍の台頭があることは間違いありません。
最近、軍は外交に対する発言力を強めています。
代表的な例を挙げましょう。
今年三月に起きた韓国軍哨戒艦の沈没事件で米国と韓国は事件現場の黄海で合同軍事演習を行い、
北朝鮮に警告することにしました。
演習計画が明らかになると、中国メディアには軍人が盛んに登場し反対発言を繰り返しました。
七月初めには、ついに現職の馬暁天副総参謀長が、香港のテレビに「中国領海に近すぎ強く反対する」
と言い切りました。米国への配慮から態度表明を避けていた政府が演習反対を明言したのは、
それから一週間後でした。軍人が外交方針を決定づけたのです。
こうした事態に中国外務省高官も「軍が外交に口を出すべきでない」と語り憂慮を隠しません。
ネットの「愛国情熱」
しかし、それを公然と口にするのはタブーです。軍人のメディアへの登場を戒めた外交界の重鎮は
インターネット上で「売国奴」と集中攻撃されました。ユーザーが四億人を超えた中国のネットは
今や世論の主流になっています。
しかし、政府の統制下にある実態は既成メディアと変わりがなく、激しい物言いが許されるのは
政府公認の「愛国主義」を鼓舞する言論に限られています。
民衆は不満を解消するように「愛国情熱」を発揮し「売国奴」を攻撃します。
それは対外強硬路線を主張する軍への、またとない援護射撃になっているのです。
(
>>2以降に続く)
中日新聞 2010年11月3日
http://www.chunichi.co.jp/article/column/editorial/CK2010110302000003.html ※依頼ありました(依頼スレ132、
>>515)