◆まっとうな外相尖閣発言
尖閣諸島沖の中国漁船衝突事件をめぐる前原誠司外相の発言を問題視する向きがある。「中国の求める
賠償や謝罪は全く受け入れられない」「国会議員は体を張って(尖閣諸島を)実効支配していく腹づもりを持って」
「(尖閣諸島の領有権を)1ミリとも譲る気持ちはない」「(領有権棚上げについて)中国側と合意した事実はない」
などの外相発言は、日本の国益と立場を踏まえれば当然であり、筋道の通ったものである。
しかるに、中国外務省の局長級(外務次官補)の一官僚が「(前原外相は)毎日、中国を攻撃する発言をして
いる」と、発言の内容に立ち入って名指し批判をした。無礼と言わざるを得ないが、そこには、それ以上の深刻に
憂慮すべき事態も生まれている。
この事態は逆の状況を想定してみれば、その異常さが分かる。どこかの国の外相が日本にとって不本意な発言
をしたからといって、その発言自体を「けしからん」ということはできない。北方領土問題に関する歴代ロシア外相の
発言などは、ほとんど暴言の連続である。日ソ中立条約に違反した対日攻撃を「解放戦争」と呼び、北方領土を
「第二次大戦の戦利品」だと言い張る。とても受け入れることのできる発言ではない。
しかし、相手国がそう思い、そう言うことは、相手国が独立主権国家であるかぎり、相手国の自由である。当方と
しては、それをそれなりの外交的な意思表示として受け止めて、その心づもりで以後、その国との外交交渉に臨めば
よいだけのことである。
中国も同じ立場にいるはずである。しかるに、中国は問題を前原外相に対する個人攻撃にすりかえて、前原外相
をつぶすことによって、日本の対中外交にたがをはめようとしている。そこには日本を中国と対等な独立主権国家と
して認めるのではなく、歴代の中華帝国が四夷の朝貢諸国を見下ろしたような上下関係の中で対日外交を進め
ようとするかのごとき、われわれから見て許し難い危険な対日外交観の萌芽(ほうが)さえ見られる。
◆国益を害する朝日報道
だから、問題は、日本の国内の受け止め方なのであって、そこに隙(すき)があるから、こういう内政干渉めいた
中国側の動きを誘うのである。10月23日付の朝日新聞の本件に関する報道ぶりには、その意味で首を傾(かし)
げざるを得ないものがあった。
記事として客観的に事実を報道する姿勢よりも、中国側の狙いに呼応して「前原外し」に加担しようとするかの
ような記事の仕立て方になっていた。国内の土俵の中で前原外交を批判するのは構わないが、前原外相が国益
を担って中国とわたりあっているときに、後ろからその背中を刺すのは、明らかに国益を害する行為である。
「前原発言 中国イライラ」「関係修復進まぬ一因に」という見出し自体が、朝日記事の報道の客観性を疑わ
せるものであるが、「中国政府内ではそもそも、前原氏への不信感は根強い」「『中国当局はこれを機に、一気に
前原氏外しを進める』(日中関係筋)との見方も出ている」という思わせぶりな言葉で記事を締めくくっているのは
もはや看過できない。
>>2-5あたりへ続く
http://sankei.jp.msn.com/politics/policy/101027/plc1010270259000-n1.htm