沖縄県の尖閣諸島周辺で起きた中国漁船の衝突事件で、那覇地検が船長を処分保留のまま釈放する決定を下した。
地検は「今後の日中関係を考慮」したなどと述べている。難しい判断だったことがうかがえる。
船長の逮捕以来、中国政府は激しい対抗措置を繰り出してきた。釈放決定後も、日本の司法手続きは不法だとの批判を変えていない。
船長の釈放をきっかけに、関係修復に向けて速やかに姿勢を転換すべきである。
事件は9月上旬、尖閣諸島周辺の日本領海内で起きた。海上保安庁によると、
海保の巡視船が中国漁船に停船を命じて追跡したところ、故意に巡視船にぶつかってきたという。
海保は公務執行妨害の疑いで船長を逮捕し那覇地検に送検した。取り調べが続き、起訴するかどうかが焦点となっていた。
釈放決定について、那覇地検は「計画性は認められず、船長には、わが国における前科もない」などと述べた。
「今後の日中関係を考慮すると、これ以上身柄の拘束を継続して捜査を続けることは相当でない」とも語っている。
説明を大筋でとらえれば、捜査の結果、総合的に判断して釈放を決定したと受け止めることができる。
もつれた日中関係をほぐす糸口にしたい。
ただ、法律に基づくはずの検察の判断に、政治的な配慮が働いたのではとの疑問が出ている。
政府は「介入」を否定しているが、野党は臨時国会で追及する構えを見せている。
尖閣諸島は明治政府が領土に編入した。先の大戦後は米国の施政権下に置かれたが、1972年に沖縄とともに返還されている。
日本政府は「領土問題は存在しない」との立場である。
一方、70年ころから中国と台湾が領有権を主張し始めたとされ、中国は92年に中国領と明記した領海法を定めている。
漁船問題がこじれた背景には、尖閣諸島をめぐる両国の立場の違いが横たわっている。
対応を誤れば、日中関係はさらに悪化する恐れがある。
関係修復から始めなければならない。中国政府は一方的に中止した閣僚級以上の交流などを速やかに再開すべきだ。
拘束した日本人の釈放も急いでもらいたい。
政府間だけでなく、政治家同士が日ごろから太いパイプを築く努力も一段と大事になる。
信頼関係がなければ、再び領土問題が大きな混乱をもたらしかねない。
http://www.shinmai.co.jp/news/20100925/KT100924ETI090006000022.htm