★北朝鮮:解任の元首相、復権 権力固める金正銀氏後見役 後継体制へ着々
<分析>
北朝鮮で3年前に首相を解任された朴奉珠(パクボンジュ)氏(71)が最近、
要職である朝鮮労働党軽工業部第1副部長のポストに就き、復権していたことが分かった。
平壌中枢に詳しい複数の関係者が明らかにした。金正日(キムジョンイル)総書記(68)の義弟で
総書記に次ぐ実力者、張成沢(チャンソンテク)国防副委員長(64)の意向を受けた人事とされる。
張氏は、総書記の三男で最有力後継候補、正銀(ジョンウン)氏(26)の後見役を務めている。
張氏の権力基盤を固める今回の人事は、後継体制への移行が着々と進んでいることの表れ
と位置づけられる。(3面に「海をゆく巨龍」)
◇中枢人事を掌握
張氏の権力が強まり、主要人事に影響力を発揮する背景には、
後継体制への円滑な移行を望む金総書記の判断があるとみられる。
また、張氏は定期的に訪中し、最大の支援国・中国の指導部との関係も良好といわれており、
中国側にも張氏を中心とした体制構築を望む声があるようだ。
朴氏は首相当時の07年、国内企業の時給制導入などを主張したことが党幹部に批判され解任された。
後継体制へのスムーズな移行のためには経済の立て直しが求められ、
朴氏が経済政策に通じていることが起用の理由のようだ。
新たに所属する軽工業部は、金総書記の妹で、張氏の妻慶喜(ギョンヒ)氏(64)が部長を務める。
北朝鮮は今年、軽工業発展を「最重点課題」にしており、同部は中枢部で重要な位置を占める。
また、朴氏が首相解任後に地方のセメント工場長として転出する際、
首相官邸から搬出した荷物が軽トラック1台分にも満たなかったという質素さが
今回の要職への起用につながったともいわれる。
一方、今年6月に首相を解任された金英逸(キムヨンイル)氏は、
中央政府で副局長級に相当する清津(チョンジン)港(咸鏡北道(ハムギョンプクド))港長に降格させられた。
解任理由は明らかにされていないが、通貨ウォンのデノミネーション(通貨呼称単位の変更)による
国内経済混乱の責任を問われたとの説が有力だ。
関係者によると、それらの人事には張氏が深く関与しているといい、その影響力は強まる一方という。
この関係者は「張氏が03年ごろ党組織指導部第1副部長から失脚した際に同じく左遷させられた側近約20人が
この1、2年でみな復権している。その数を『300人』とカウントする(北朝鮮)幹部もいる」と話している。
かつて張氏が失脚した背景は不明だが、対立勢力から「総書記の権力を脅かす」と吹聴されたといわれている。
張氏は06年1月に公的な行事に参加したことが伝えられ、復権していたことが分かった。
今年6月に国防委員会委員から同委副委員長に昇格し、事実上のナンバー2の地位に就いた。
北朝鮮指導部では金正角(キムジョンガク)朝鮮人民軍総政治局第1副局長
▽禹東則(ウドンチュク)国家安全保衛部副部長▽朱霜成(チュサンソン)人民保安相の3人
(いずれも国防委員)が力をつけ、最近は「軍・保衛・保安のトロイカ体制」を敷いているという。
その3人を張氏が統制し、その上に正銀氏、さらに金総書記が君臨する体制という。
政権に近い関係者は「もはや将軍様(金総書記)と張氏の力関係は紙一重」と指摘する。
日本の外交関係者は「金総書記が、かつて更迭した張氏の権力増強を黙認しているのは、
『自分は先がもう長くない』と考えて周囲を見渡した時、『やはり張氏しかいない』と悟ったからではないか」とみている。
北朝鮮では最近、後継体制作りに関与するとみられていた李勇哲(リヨンチョル)党組織指導部第1副部長
▽金仲麟(キムジュンリン)書記▽李済鋼(リジェガン)同部第1副部長−−の有力者が相次いで死亡した。
「2人の第1副部長は不審死の可能性が高い」との観測もある。【「安保」取材班】
ソース 毎日新聞 2010年8月15日 東京朝刊
http://mainichi.jp/select/world/archive/news/2010/08/15/20100815ddm001030055000c.html