胡錦濤政権、日中関係に配慮
【北京=佐藤賢】中国製冷凍ギョーザ中毒事件の容疑者の拘束により、日中間の大きな懸案のトゲが取り除かれ、
中国政府は日本人の対中感情の好転を期待している。胡錦濤政権は5月以降の相次ぐ首脳級の往来を見込み、
真相の早期究明を指示していたとされる。停滞感の漂う日中関係の打開を狙うが、東シナ海ガス田問題の難題も抱える。
中国外務省の幹部が北京の日本大使館の公使を呼び、容疑者の拘束を伝えたのは26日夜。国営新華社を通じて
発表する前で、日本政府内にも捜査の急展開に驚きの声が出た。「警察当局が入念に捜査してきた結果」(秦剛・
外務省副報道局長)だが、日中関係筋は「胡政権が対日関係に配慮し、捜査当局に改めて発破をかけていたフシがある」という。
昨年9月に発足した鳩山政権は中国重視を掲げる一方、岡田克也外相らがギョーザ事件の解決努力を強く訴えた。
世論調査では事件を背景に日本人の対中感情は好転せず、「戦略的互恵関係」と銘打った日中関係に具体的な前進は
見られなかった。胡政権は事件の解決が重要との認識を深めていったとされる。
日中両政府は5〜6月に鳩山由紀夫首相の訪中や温家宝首相の訪日を調整中。首脳会談の機会などを利用し、
昨年10月の日中首脳会談で合意した「日中食品安全推進イニシアチブ」の枠組みを閣僚級で合意する見通しだ。
ギョーザ事件の捜査の進展はこうした動きを促す材料になる。
中国政府にとって、欧米との間で台湾・チベットやネット検閲、人民元問題など摩擦が広がる中、対日外交の重要性が
高まっているのは事実。中国製食品を巡る相次ぐ問題で国内外に広がる不信感を払拭(ふっしょく)する効果にも期待する。
とはいえ、日本の消費者の警戒心は簡単に解けず、東シナ海のガス田開発を巡る問題も事態打開の糸口が見えない。
27日付の中国の大衆紙各紙は容疑者の拘束を伝える記事を掲載したが、抑えた扱いが目立つ。国営新華社の配信を
引用するのみで、独自の分析記事はない。当局が政府批判や対日感情の悪化につながるのを懸念し、統制しているとみられる。
中国のインターネット上には「(容疑者は)貧富の格差拡大の犠牲になった」「かわいそうな中国人だ」との書き込みも
出ている。清華大学の劉江永教授は「中国が期待する日本人の対中感情改善がなければ、逆に中国国民は日本に
対して厳しくなるかもしれない」と心配する。胡政権は引き続き対日外交の難しいかじ取りを迫られる。
ソース:日本経済新聞 2010/3/27 22:04
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