http://www.yomiuri.co.jp/photo/20100324-282003-1-L.jpg 中国の情報技術(IT)を巡る海外との摩擦で、明暗が分かれた。日本との機密開示情報問題が決着する一方、
米グーグルとの溝は決定的となり、海外企業の対中戦略に微妙な影を落とす可能性もある。
IT開示強制の妥協 猛反発受け、対象限定
中国政府がIT製品の機密情報を日本のメーカーなどに強制的に開示させる制度について、直嶋経済産業相は
23日、中国の国有企業の調達分には適用しないことで両国が合意したと発表した。2年越しの制度見直し要求に
対し、中国が譲歩した格好だ。ただ、政府調達分を対象にした強制開示は今年5月に始まる予定で、輸出障壁と
しての懸念は残る。
開示制度は、中国独自の製品安全基準である強制認証制度にIT製品を加える形で導入するもの。ソフトウエアの
設計図「ソースコード」などの機密情報の強制開示につながるため、日米欧は猛反発していた。
中国は2009年4月、開始の1年延期とともに、対象を輸入製品全般から政府調達分に絞る方針を示したが、
国有企業の調達分が政府調達に含まれるかどうかが焦点になっていた。
中国の国有企業は約14万社に達し、世界貿易機関(WTO)によると、中国の国内総生産(GDP)に占める国有
企業の調達額の割合は約35%を占めるからだ。一方、中央や地方政府の調達額は約1・8%にとどまる。
今回の政策は、「中国は規制を決める部門と実際に調達の範囲を決める部門が別々で、調整不足のまま打ち出
された」(日本政府関係者)との見方が強い。中国譲歩の背景には、日米欧が足並みをそろえて粘り強く交渉してき
たことに加え、中国の縦割り行政のひずみが、日本などに有利に働いたとの見方もある。
強制開示は非接触ICカード技術など、日本企業が得意な13品目を含んだ幅広いハイテク製品が対象になるため、
政府調達分については、知的財産の流出を嫌う日本企業は取引しない方針だ。
もっとも、中国の政府調達は安全保障上の問題を理由に参入障壁が高く、日本企業の受注実績は少ない。こうした
点を踏まえ、直嶋経産相は23日、「日本への影響の懸念は基本的に払拭(ふっしょく)できた」との見方を示した。
ただ、政府調達への規制が残ったことで、先行きの不透明感は残っている。日本経団連の御手洗冨士夫会長は
同日の定例記者会見で、「今後の推移も注意深く見極めたい」と述べた。産業界からも、「実施された場合の影響を
測りかねている」(電機大手)との声が上がり、引き続き警戒が必要との見方が多い。(植竹侯一、北京 幸内康)
グーグルの本土撤退 独自規制、外資に強要
中国政府が強硬姿勢で米グーグルを部分撤退に追い込んだ背景には、経済的な地位向上を受けた経済ナショナ
リズムの強まりがある。
中国政府は昨年6月、電気自動車やハイブリッド車など「新エネルギー車」を生産する企業に核心技術の情報の
届け出を義務づける方針も示した。今年5月から実施されるIT機密情報の強制認証制度でも、日米欧と摩擦を引き
起こすなど、独自路線を強めている。
また、22日から上海市で公判が始まった英豪資源大手リオ・ティント社員4人による産業スパイ事件は、中国側との
鉄鉱石価格交渉中の4人が身柄拘束され、ビジネス上の利害対立により、法的措置を行使されかねないとの不安を
海外の企業に抱かせている。
外資に開放が不十分な業界も少なくない。生命保険は外資単独の会社設立ができないほか、損害保険でも外資
は自動車の強制保険の取り扱いは認められていないなど外資規制が多い。
中国が強気の姿勢を示すのは、「世界の工場」から「世界の市場」に転換しつつある中国に対し、外資企業が依存
度を強めている事情もある。
温家宝首相は今月5日、2010年の政策の方針を示す「政府活動報告」の中で、ハイテクや省エネ・環境技術を有
する外資企業の優遇を打ち出した。先端技術の吸収が狙いとみられる。
ただ、中国は、巨大な潜在市場を抱え外資企業にとって魅力的な一方で、依然として完全な自由主義経済とは異な
る、中国独特のリスクを意識する必要が残っている。(北京 幸内康)
ソース:読売新聞 2010年3月24日
http://www.yomiuri.co.jp/net/news/20100324-OYT8T00383.htm