【三亜(中国海南省)=河崎真澄】中国南端の海南島で、
マンション販売価格が1カ月で2倍に値上がりするなど、不動産バブルの兆候がある。
「中国のハワイ」とも呼ばれる九州ほどの大きさのこの島を、中国政府が1月に
「今後10年で世界一流のリゾート地にする」と“宣言” し、投機資金が集中したためだ。
海南島には、領有権未確定の南シナ海をにらむ軍事拠点としての顔もある。
このためリゾート開発の“加速指令”の狙いは、軍事施設の補給線を兼ねるインフラ整備だとの見方がある。
春節(旧正月)連休が明けた海南島では、
リゾート地に似つかわしくない男性ばかりのグループが、レジャー客と入れ替わりに
闊歩(かつぽ)している。不動産物件や利権を求めて中国各地から集まった業者や投資家だ。
中国国家統計局が発表した1月の全国70都市の住宅やオフィスの販売価格統計では、
海南省海口市が前年同月比で31・8%とトップに、同省三亜市が同29・2%で2位となった。
不動産業者によれば、年初から50%値上がりした物件はざらで、2倍になった人気物件もある。
ドバイへの不動産投資で注目された浙江省温州の資産家らが買いあさっているとの情報もある。
だが海南島は過去に、不動産バブルの崩壊で手痛い失敗の経験がある。
島全体が省として広東省から独立した1988年、全島が経済特区に指定され、
90年代に経済開発への期待から地価が急騰。その後、需給バランスが崩れ、
不動産購入資金を甘い審査基準で融資していた海南発展銀行が、
大量の不良債権を抱えて中国の銀行として初めて経営破(は)綻(たん)した。
買い手が付かなくなった建設中のマンションなどは爆破処理された。
そうした経緯があるにもかかわらず、不動産バブルを再燃させかねないリゾート開発の加速を
中国政府が指示した背景には、「軍事施設への補給線として欠かせない空港や鉄道、港湾を
急ピッチで整備するための国際社会に対する目くらまし戦略ではないか」(日中関係筋)との分析がある。
海南島東部の文昌では昨年、中国沿岸部で初めてのロケット発射基地の建設が始まった。
既存の海口、三亜両空港に加え、東部のボアオなど、島内で同時に3カ所の新空港を建設する計画もある。
軍民両用とみられる。北西部の洋浦湾では原油の戦略備蓄基地の建設も計画され、港湾建設が進む。
さらに、海南島と広東省湛江を結ぶ大型橋梁(きようりよう)も、
2020年までの完成をめざし来年にも着工する見通しで、鉄道と道路が本土と直結する。
こうした矢継ぎ早のインフラ整備を、リゾート開発のためだけに行うのは、経済効率からみても不自然だ。
ベトナムやフィリピンなど周辺4カ国および台湾との間で、
中国が領有権を争うスプラトリー(南沙)諸島を含む南シナ海は、
天然ガスなど未開発の海底資源の宝庫とされる。南シナ海での制空権や制海権の確立を狙い、
海南島の軍事施設の拡大と関連インフラ整備を、国際社会との摩擦を最小限に抑え進めるためには、
リゾート開発を旗印に掲げるのが最適だと胡錦濤指導部が判断した可能性があるという。
南シナ海をめぐっては01年4月、中国軍の戦闘機と空中接触した米海軍の電子偵察機が
海南島の空港に緊急着陸した事件や、昨年3月に米軍事委員会で、
米海軍の音響測定艦の活動が中国船から妨害を受けた問題が指摘されるなど、
米中間で“情報戦”が繰り広げられている。政府主導のリゾート開発熱に踊らされる投資家の陰に、
南シナ海をにらんだ中国の冷徹な軍事戦略も見え隠れしている。
ソース 産経新聞 2010.2.26 17:32
http://sankei.jp.msn.com/world/china/100226/chn1002261738003-n1.htm