M&Aに中国独禁法の壁 過剰気味の親心、外国勢ピリピリ
「思っていたより深刻。最近は、日本企業同士の経営統合であっても、とにかく早く、
中国向けの輸出や生産状況を把握するよう助言している」
ある法律事務所のM&A(合併・買収)担当の弁護士は眉をひそめる。
2008年8月の中国初の独占禁止法施行から約11カ月。中国当局が次々と話題の国際M&A案件に
介入する中、内外の関係者の注目を集めた案件があった。三菱レイヨンによる英ルーサイト・
インターナショナルの買収だ。
「新規投資」を禁止
三菱レイヨンは昨年11月、10年越しの意中の相手だったルーサイトを約16億ドル(約1600億円)で
買収すると発表。ルーサイトは液晶や自動車の部品に使うアクリル樹脂原料、メタクリル酸メチル
(MMA)モノマーの世界最大手で、同4位の三菱レイヨンはシェア35%を握るトップに躍り出る。
今年1月にも全株を取得し、満を持して具体的な統合作業に取りかかるはずだった。
だが、世界中の独禁当局の中で唯一、待ったをかけたのが中国だった。両者が中国内に
それぞれ工場を持ち、買収によりMMAモノマーの中国市場でのシェアが64%になることを
問題視した。長い審査の後、結局4月末には買収を了承したが、関係者が絶句したのは、
そこにつけ加えられた条件だ。
中国の独占禁止法を巡る最近の主な出来事
当局は、三菱レイヨンに今後5年間はMMAモノマー事業の買収や新工場の建設をしないよう要求。
さらに、ルーサイトの生産能力の半分を利益を付加しない原価で販売することや、三菱レイヨンと
ルーサイトが中国事業をそのまま別会社とするよう求めた。中国企業から政府への陳情もあった
模様。三菱レイヨン関係者は「買収そのものが不承認にされる恐れもあった」と振り返る。
健全な競争環境を守るという独禁法の目的よりも、中国企業を保護する意図が強いという印象を与えた。
西村あさひ法律事務所の中山龍太郎弁護士は「将来の事業拡大まで制限するのは世界の
独禁法の運用でも異例。過剰な保護にならないか」と指摘する。ある総合化学の法務担当者は
「MMAモノマーという限られた市場での、しかも英国企業の買収なのに、中国は本当に細かい
ところまで目を光らせている」と警戒する。
中国の独禁法は米国法を参考に作られ、規定も似ている部分が多い。だが、運用面に課題がある
というのが専門家の見方だ。独禁法は米国の司法省や米連邦取引委員会(FTC)、
日本の公正取引委員会のように他の経済官庁から独立した組織が運用するのが常識。
中国では日本の経済産業省に当たる商務省などが独禁法も担当する構図だ。
独禁法に詳しい狛文夫弁護士は「不承認の基準も明確ではない」と言う。
自国保護、最後の砦の見方も
世界貿易機関(WTO)の加盟などと引き換えにこの数年、中国は市場開放を進めてきた。
保護の手段を失いつつある中国政府が自国産業を守る最後の砦として、独禁法を使うことへの
懸念はくすぶる。一方で、企業側は成長市場である中国をむげにはできず、中国の独禁法の
運用が厳しくても、歯向かえない現実がある。
日本企業による攻めのM&Aが目立ってきた矢先。だが、「今後は中国での審査に時間がかかり、
M&A作業が滞る例が増える」と予測する声は多い。昨年以降、IT(情報技術)製品の技術情報の
強制開示案など保護主義的な政策が目立つ中国。外資の参入を成長のテコにする従来の
戦略からの転換期にあることを、リスクとして頭に入れるべきかもしれない。
http://business.nikkeibp.co.jp/article/topics/20090703/199289/gr1.jpg 小瀧 麻理子(日経ビジネス記者) 日経ビジネス 2009年7月6日号14ページより
http://business.nikkeibp.co.jp/article/topics/20090703/199289/ http://business.nikkeibp.co.jp/article/topics/20090703/199289/?P=2 ※依頼ありました(依頼スレ116、
>>209)