【アメリカ】「ブタの脳」を吸い込んだ労働者たちに謎の神経疾患[03/17]

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1喫茶-狼-φ ★
「ブタの脳」を吸い込んだ労働者たちに謎の神経疾患
2009年3月17日

1年余り前、米国の豚肉加工工場で働いていた24人が謎の神経疾患に冒された。後にこの発症には、微粒子となったブタの脳を
吸い込んだことが関連していると判明した。現在はその24人が全員、ある程度の健康を取り戻している。

NY Timesの記事によると、事の発端は2006年11月。ミネソタ州オースティンにあるQuality Pork Processors社の工場で、労働者3人が
よく似た不思議な症状を訴えた。その内容は倦怠(けんたい)感、脚のしびれやうずき、痛み、歩行困難などだ。

問題の原因は分からなかったが、検査で重度の脊髄(せきずい)炎が見つかり、自己免疫疾患が疑われた。患者の免疫系が自己の神経を
異物だと間違えて攻撃するということだ。

数カ月で、同様の症例が24件まで増えた。医師たちが必死に共通の手掛かりを探した結果、過去にもインディアナ州の食肉加工工場で
似たような症例があったが、大きく報道されてはいなかったことがわかった。

ブタの脳を食用に加工する工場は米国に3つだけあり、ミネソタとインディアナの工場はそのうちの2つだった。
さらに、ミネソタの工場で症状を訴えた24人は全員、「頭部を扱う台」がある部屋で働いていた。
[NY Timesの記事によると、工場で加工されていた脳は、主に中国と韓国に食用として輸出されていた。
 また、米国南部の一部でもブタの脳を食べる習慣があるという]

頭部を扱う台では、ブタの頭部を切断して開き、圧縮空気を勢いよく吹きかけて脳を取り出していた。
この処理が1時間に約1400回行なわれ、脳が吹き飛ばされて細かい霧のようになっていた。
室内にいた全員が病気になったわけではない。しかし、台の近くにいた人ほど発症する傾向が見られた。

「ブタの脳組織を吸い込むと、体内で抗体が作られる」と、労働者たちの治療に協力したメイヨー・クリニックの
神経科医James Dyck氏は説明する。抗体とは、体に入ってきたバクテリアや異物を認識するため、免疫系が用いる化学物質だ。
「ブタの脳と人間の脳には重複する部分がかなりある。それが問題だった」

労働者たちの免疫系は誤って、自らの神経を標的にしたというのだ。幸い、ほとんどの患者で免疫療法やステロイドの効果があり、
6人は治療なしで回復した。ただし、完治した患者は1人もいない。

今回突然、発症が相次いだ正確な理由は分かっていない。ミネソタの工場では、病気が明らかになった直後、ブタの脳を加工する施設
を閉鎖した。以降、新たな症例は報告されていない。

Dyck氏によると、悲劇を招きかけたこの出来事にもプラスの面があるという。自己免疫の発現はさまざまな病気の根底にある現象で、
そうした病気はほとんど解明されておらず、治療も難しい。今回の出来事のおかげで、自己免疫の発現について、実験室では不可能な
方法で調べることができたのだ。

この事件については、2月下旬に開催された米国神経学会の年に1度の会合で発表された。

[英国では、牛海綿状脳症(BSE)の恐れから、牛の脳や脊髄を人の食用に供することを1989年に禁止した。
 BSEのほかクロイツフェルト・ヤコブ病や羊のスクレイピーにおいて、中枢神経系の神経細胞に異常プリオン蛋白が蓄積することが
 確認されており、それらの疾患の原因物質であるとする説が有力]

[日本語版:ガリレオ-米井香織]

http://wiredvision.jp/news/200903/2009031721.html