1.中国の罰金制度にびっくり
5年ほど前、上海に住んでいた時のことである。勤務先が郊外にあったので、車が朝7時半に
自宅に、さらに市内の2か所で同僚を乗せてから勤務先へ、到着は8時半ごろ。始業時間は9時
なので丁度よかった。
ところがある日、一般道も高速道も酷く渋滞したため、到着が9時10分になった。すると翌日
から車は7時に迎えに来るようになった。勤務先のスタッフによると、到着が遅れた日は運転手
が会社から罰金を取られるのである。
その後、激しい渋滞がある度に迎えの時間はどんどん早くなり、遂には6時過ぎになってしまった。
担当の中国人に文句を言っても「それは仕方のないことだ」といった態度であり、毎日始業
の2時間近く前の出社を余儀なくされた。
2.罰金制度の功罪
中国では古くから罰金により従業員を律してきた経緯があり、中国に進出している日系企業
でも導入しているところは多いという。日本では受け入れがたいことだが、中国では一般的
な制度であり、生産性の向上や品質管理をはじめ様々な業務に効果があるという。
確かに罰金を取られるとなれば、ミスを無くすように注意するかも知れないが、反面与えら
れた仕事以外はやらないという態度を生んでいる。前述の運転手のように「自分は罰金を払
いたくないから遅刻はしたくない」という思いだけで、私や同僚に対する迷惑などは顧みず、
自己中心的に行動する。
罰金制度は従業員の怠慢や不注意は防げても、協働や自主的な改善による付加価値の向上や
顧客満足の実現には役に立たないと考えられる。
3.罰金制度が禁止に
2008年に中国で施行された「労働契約法」により、罰金制度は禁止となった。長年続いた
手法が使えなくなり、中国企業の人事管理は大きな変革期を迎えたと言えるであろう。
今後の対応としては資格等級制度や人事考課制度などの導入が考えられるが、大切なのは
企業の従業員に対する考え方の転換である。
罰金制度などの懲罰による管理は「従業員はサボるものだ」といった性悪説的な発想が基に
なっているが、これからは「従業員は自ら働くものだ」という性善説的な発想に切り替えて
制度を構築することが重要であろう。
4.新しい制度がもたらすもの
性善説に基づいた自主性を重んじる新しい制度への変革は、中国企業の生産性や品質、サー
ビスを大きく向上させるであろう。その実現のためには中国の企業と行政、実際に働く人の
意識改革が必要であるが、中国の日系企業もこれを機に、積極的に制度改革を推進し成功事例
を作ってゆくことが重要である。
北京オリンピックを成功させ、2010年には上海万博が開催され、上海ディズニーランド構想
も浮上している。中国への注目度はより高まり、世界の中での役割の高度化が期待されている。
それは中国企業や社会に対して多くの変革を求めることになる。罰金制度の禁止が今後の中国
の更なる発展のきっかけのひとつとなることを期待したい。
(執筆者:姫野剛慶・日本経営管理教育協会会員)
サーチナ 2009/03/04 15:46
http://news.searchina.ne.jp/disp.cgi?y=2009&d=0304&f=column_0304_006.shtml 写真は上海万博のマスコット「海宝(ハイバオ)」。
http://news.searchina.ne.jp/2009/0304/column_0304_006.jpg