【カンボジア】国民大虐殺を行ったポル・ポト政権崩壊から30年。負の歴史教育が本格化【1/25】

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1四季を巡る裁判長φ ★
一九七〇年代後半、カンボジアで犠牲者二百万人ともいわれる国民大虐殺を行った
ポル・ポト政権が崩壊して三十年。首都では、この暗黒時代の真実と向き合い「負の歴史」を
次世代に伝える歴史教育がようやく本格的に始まろうとしている。 (プノンペンで、古田秀陽、写真も)

ポル・ポト政権時代に約二万人が収容され拷問、処刑が行われたプノンペン市内のトゥール・スレン刑務所。
現在は博物館で、床に流血のあとが残る拷問室などが保存されている。

室内で尋問の様子を再現するチュン・マイさん(78)は、後ろ手に縛られた姿勢で
「米国やベトナムのことは本当に知らないんです」と叫んでみせた。

今では数人といわれる同刑務所の生存者の一人。時折、博物館を訪れる子どもたちにボランティアで収容体験を話す。
「初めは信じないよ」とチュンさん。だが、拷問を受けた部屋で、足の生づめをはがされ耳から電流を流された話をすると、
子どもたちは驚きや悲しみの表情を浮かべ、時には泣きだすという。実話と実感するからだ。

拷問、処刑、強制労働、飢え…。平和な時代に育った子どもにはすぐには「信じられない」負の歴史を
正確に教えようという試みが、トゥール・スレン博物館で今年から進められている。

計画では、博物館敷地内に図書室を作り、刑務所の生存者から話を聞いたり、当時の映像を見せたりする。
生徒は両親や祖父母から当時の話を聞き、家族の人数の変化などを調べ、記録して図書室に納める。

祖父母が虐殺で亡くなった家庭などには、大虐殺を全く知らない子どもも多い。当時を思い出したくない親たちが、
子どもに話さない場合もある。それでも「千、二千と記録が増えれば大虐殺を信じられるはず」と、一年前から準備を始めたチェイ館長は言う。

計画には別の狙いもある。博物館に生徒を引率する教師やガイドは「百人が百人とも異なった説明をしていた。真実が語られていない」
と館長は思った。ポト派に関する国民共通の歴史記述はない。だからこそ「物語ではなく、証人や証拠に基づいた真実を伝える努力が必要だ」と訴える。

ポト派の歴史をわずかずつだが教える公立学校もでてきた。プノンペン市内のバンケインコン中学校では、同派の記述が三−四ページある教科書を
歴史の授業で使用。教師たちも勉強会を開き、当時の歴史を学んでいる。

 生徒たちの関心は高い。中学一年のチャプサンさん(13)は授業後「もっと知りたい」と両親に頼み、トゥール・スレン博物館に連れて行ってもらった。
「こんなことは二度と起きないようにしなくては」と強く思った。

 チェイ館長には移動博物館の夢もある。大型バス内に資料を展示し、一九九八年までポト派の拠点だったアンロンベンなどの地方を巡りたいと言う。
「ポト派の元兵士が生きている土地で、当時の事実を教えたい。二度とあの時代に戻らないように…」

東京新聞
http://www.tokyo-np.co.jp/article/world/news/CK2009012502000122.html