読売新聞2008年10月20日文化面18に掲載の記事
アジアスコープ 木村幹
韓国経済 癒えぬ通貨危機の傷
今から一か月半ほど前のことである。韓国では、公然と「9月危機説」な
るものが囁かれていた。通貨危機を経験した韓国では、10年後の今年9月に、
大量の外国人保有債券が満期を迎えることになっていたからである。満期日は
9月10日に集中しており、一部の新聞は、この日に第2の通貨危機が訪れる
かのように報じていた。
結論から言えば、韓国は9月10日を無事に乗り切ることができた。外国
資本は有していた債券の大部分を韓国に再投資し、通貨危機の可能性は彼方
に去ったかに見えた。
しかし、ここから話は変わってきた。リーマン・ブラザーズの破綻が9月
15日。外国資本が韓国関係の債券の大量買い換えを行ってから僅か5日後
のことである。その後の世界の金融市場の混乱は、読者の皆様の方がご存知
に違いない。
ある韓国関係者の言葉を借りるなら、韓国は幸運だった。もし、9月10日
と15日の出来事が入れ替わっていたとしたら、韓国は大変な危機に直面し
ていただろう。
そしてこのことは、世界に改めて、韓国経済が未だ大きなアキレス腱を抱
えていることを明らかにした。一旦負った通貨危機の傷は、まだ完全に癒え
ていない。
だからこそ、今回の金融危機においても、韓国の市場は不安定な動きを
見せた。印象的だったのは、ウォンの不安定な動きだった。
9月17日には1ドル=1116ウォンだったのが相場は、10月8日には
1395ウォンまで下落した。円に対してはより大きく下げ、9月17日には
100ウォン=9.3円の相場が、10月8日には7.0円近くにまで下落
した。僅か1年前の夏には100ウォンは13.5円近くの価値を有していた。
円に対するウォンの価値は1年余りの間に半減したことになる。
明らかなことは、豊かになった韓国が、依然として国際社会からの十分な
信頼を獲得していない、ということである。危機が起こる度に、韓国ウォンが
市場で買い叩かれる。
そのことは、例えば、まだまだ東アジアでは欧州のような共通通貨の導入が
難しいことを意味している。不安定な韓国や中国経済を抱え込む余裕は、自ら
の不況から完全に脱していない日本にはない。東アジアにおける欧州のような
経済統合は、まだまだ先のことになりそうだ。
(神戸大教授・朝鮮半島地域研究)