家を出て革命軍になり戻ってきた兄(故・金日成〈キム・イルソン〉主席を象徴)が、
目の不自由な妹を抱きしめ、涙を流すラストシーンで幕が降りた。
中国人の大観衆は一斉に立ち上がり「非常好! 非常好!(すばらしい)」と叫ぶ。
世界最大規模の中国国家大劇院にあるオペラ専用劇場「池座」で
約2000席を埋め尽くした中国の人々は、拍手喝采(かっさい)を送っていた。
北朝鮮の「血の海」歌劇団は故・金日成主席の誕生日にあたる4月15日、
中国・北京で『花売り娘』を上演した。これを見に来た中国人の観客たちは、
はじめから尋常ではなかった。ある観客は幕が上がる前、
「初公演を見たのは15歳のとき。本当に感動的だった」とつぶやいた。
だが、初上演から35年が経過した今回の公演チケットはなんと680人民元(約9900円)。
それなりの大学を卒業した新入社員の初任給が2500元(約3万6000円)程度だから、かなりの大金だ。
「高いのでは?」と尋ねると、彼の表情が曇った。そして「思い出のためにはこれくらい払わなければ…」と答えた。
『花売り娘』が北京で初めて上演されたのは1973年。文化革命が8年目に入ったころだ。
階級闘争の正当化という論理を、朝鮮労働党特有の家族愛をモチーフに描いたためか、
10代中盤・後半の中国人紅衛兵(文化大革命で毛沢東の指導の下に作られた青少年組織)は
すっかり魅了された。「あのころも今も感動はまったく同じ?」という質問に、
35年前の記憶をたどりながらBGMを口ずさんでいた40代半ばの男性はしばらく首をかしげていたが、
「…いや、わたしが変わったのでしょう。今のわたしはあの頃のわたしとは違いすぎる」と答えた。
上演が終わると、観客たちは国家大劇院の地下駐車場へと押し流されるように下りていった。
中年になった男性たちは妻をそれぞれ中型ベンツやアウディ、BMWといった高級外車に乗せ、劇場を後にした。
北朝鮮ではまだ現実そのものである「革命と階級闘争」だが、
経済的に豊かな中国の40‐50代の人々にとっては懐かしい思い出でしかない。
中国人の郷愁をそそるこの奇妙な公演は来月末まで中国14都市で行われる予定だ。
【記事】
http://www.chosunonline.com/article/20080417000072