日本の代表的通信社、共同通信社(東京都港区)が北朝鮮に平壌支局
を開設して9月1日で丸1年になる。世間を震撼(しんかん)させる特ダネは
まだ出ていないが、閉鎖国家の首都に置かれた日本初の報道機関の
拠点への期待は高い。取材体制はどのようになっているのだろうか。
現在、共同通信社は海外に42支局をもち、そのうち34支局に記者が
常駐している。残りの8支局には現地スタッフを置いているが、記者は
常駐せず、他支局でカバーしている。平壌支局も後者に属する。北朝鮮
は日本人記者の常駐を認めていないからだ。このため平壌支局長は
中国総局長が兼務。朝鮮語のわかる中国総局員が1人、平壌支局員を
兼ねている。
共同と朝鮮中央通信はアジア太平洋地域の通信社で構成する「OANA」
の加盟社で、以前から記事交換などの交流があった。この関係から共同
の平壌支局は、北朝鮮最大の報道機関、朝鮮中央通信の社屋の中にある。
現地スタッフはカメラマンも含めて若干名。いずれも北朝鮮人で日本語は
もとより英語も話すことはできないという。
共同の中屋祐司外信部長は「日本から平壌支局へ直接指示を出すこと
はなく、すべて中国総局を通じてコミュニケーションを図っている」という。
朝鮮語による平壌支局からの情報、原稿もまず中国総局へ送られ、
平壌支局員を兼務する記者が翻訳したうえ、総局長がチェックしている。
こうして日本へ送られた原稿はさらにデスクの目を通って加盟社へ
配信される。もちろん平壌発の共同電が紙面に掲載されるかどうかは、
最終的には加盟各社の判断ということになる。
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支局開設からこの1年間で加盟社へ配信された原稿の本数は合計で
約80本。月によってばらつきがあり、北朝鮮が核実験を実施した昨年
10月は30本あったが、12月はゼロ。ことしに入って5月もゼロだった。
しかし6月は15本という具合になる。
6月は国際原子力機関(IAEA)のハイノネン事務次長ら実務代表団が
6カ国協議の「初期段階措置」履行に向け、核施設の稼働停止、封印に
ついて協議するために平壌へ入った。このときは北京から記者が駆けつけて
報道したので出稿数が多くなった。いずれにしても年間約80本という記事量
が多いのか少ないのか、見方は分かれるであろう。むしろ、数よりも質で
北朝鮮の実情をもっと打電してほしかった面もあるが、閉鎖的な体質を
考えれば、期待するのも難しいだろう。
西側メディアのトップをきって、共同よりひと足早い5月に開局した
米AP系列の映像配信会社APTNも派手な活躍はしていない。また
友好国である中国の新華社にしても、ロシアのイタル・タス通信にしても
平壌支局は鳴かず飛ばずの状態だ。
◇
ただ平壌支局開設の効果は徐々に表れてきているという。北京常駐の
記者や東京本社の取材チームがこれまで以上に平壌へ入りやすくなり、
北朝鮮外務省の日本担当官との会見も何度か実現。たとえ一方的な
情報であれ、取材ルートが曲がりなりにもできつつある。
現在のところ「取材上のことも含めトラブルは一切ない」(中屋外信部長)
というが、望ましいのは日本人記者の常駐。だが、その実現性はいまの
ところ薄いようだ。共同はこれからも常駐化を求めていくというが、北朝鮮
の政治プロパガンダの網の目をかいくぐって、どこまで客観的な報道が
できるか。2年目に入った平壌支局をこれまで以上に注目していきたい。
ソース(イザ!・産経新聞)
http://www.iza.ne.jp/news/newsarticle/world/korea/81458