昨年9月、クーデターが起きたタイで、軍が組織した憲法起草委員会は18日、新憲法の第1
次草案を公表した。下院の選挙制度を小選挙区制からかつての中選挙区制に戻し、上院議員
を任命制にするなど、クーデターで首相の座を追われたタクシン氏を支持した旧与党、タイ愛国
党のような巨大与党の出現阻止に主眼が置かれている。
先のクーデターが起きる前はタイ愛国党が小政党を吸収して巨大化した。タイ愛国党は2005
年2月の下院選挙で全議席の約75%を占め、タクシン氏は一党支配に近い体制を築いた。
このため、野党はタクシン首相(当時)の不信任決議案すら提出できない事態に陥った。
上院議員は前回制定された1997年憲法で任命制から公選制になり、候補者は政党への
所属を禁止された。しかし、実際には与党議員の親族や関係者が数多く当選し、上下両院を
タクシン氏が支配するようになった。上院が、憲法裁判所の長官や判事、国家汚職防止取締
委員会の委員について事実上の任命権を持っているため、タクシン氏の強権政治を監視する
システムが機能していないという批判が強かった。
ただ、今回公表された草案内容の不備を指摘する声が早くも上がっている。司法関係者や
独立調査機関の長らで組織する委員会が上院議員を任命することについて「民主化の流れに
逆行する」という意見もある。また草案は、軍によって制定された現在の暫定憲法が認める全
行動を支持しており、地元メディアは「クーデターを合法化する内容だ」と批判している。
草案には相続税の導入も盛り込まれず、貧富の格差解消への道筋はいっこうに見えてこない
。憲法起草委員から政党関係者は排除されており、主要政党も不満を募らせている。
憲法起草委員会は今後、国民から意見を聴いた上で第1次草案の手直しを行い、最終草案
を憲法起草議会に提出するとしている。同議会で採択されたあと、新憲法案が公開され、
9月3日までに国民投票で新憲法案の是非が問われる。
http://www.sankei.co.jp/kokusai/world/070419/wld070419004.htm