【天声人語】温家宝首相の国会演説、「威ありて猛(たけ)からず」を思った…名の通り「温厚」な人物だ [4/13]

このエントリーをはてなブックマークに追加
1ツンデレおまコンφ ★
中国の温家宝首相の国会演説を聞き、「威ありて猛(たけ)からず」を思った。
孔子の弟子が師を表した言葉で、「威厳はあるが威圧感はない」。激しい言葉は
なかったが、ゆるぎなく語りかけた印象が残った。

名の通り、温厚な実務派として知られる。中国国内では、気さくな人柄がメディア
によって広まり、「平民総理」の愛称がある。共産党内の序列は3番ながら、
トップの胡錦濤主席をしのぐ人気があるそうだ。

だが別の顔もある。89年の天安門事件のとき、趙紫陽総書記の大番頭的なポスト
にいた。趙氏は事件で失脚するが、温氏は生きのびる。趙氏と立場の違う後任の
江沢民総書記に引き立てられ、今に至る地歩を築いたという。したたかな二枚腰に、
氏の処世術を見る人もいる。

この訪日で、温氏は「氷」をキーワードにした。小泉前首相の靖国神社参拝などで
日中間には分厚い氷が張っていた。昨秋、安倍首相が訪中してその堅氷を砕いた。
砕いた氷を、今度は溶かす旅だと位置づけて、日本にやって来た。

そして氷はゆるんだように思える。しかし日中はまだまだ薄氷を踏む間柄だ。中国
外務省の報道官も成果は認めながら、氷を溶かす旅になったかどうかの問いには
慎重だ。歴史認識などでひとたび歯車が狂えば、たちまち硬い氷に閉ざされること
になる。

おとといの歓迎式典で、安倍首相は旧知を迎えるような表情を見せた。北京からの来訪は、
「朋(とも)あり遠方より来(きた)る」の思いだっただろう。信頼を損ねず、薄氷を踏み抜かず、
慎重な足の運びを望みたい。

ソース:朝日新聞
http://www.asahi.com/paper/column20070413.html