中国で日本人を含めた外国人に幅広く実施されてきた臓器移植手術が、来年1月から極めて困難になることが
28日までに分かった。死刑制度の厳格化により、1月から死刑判決の是非に最高人民法院(最高裁)が一括し
て許可を出す制度が始まり、ドナー(臓器提供者)の大半を占めてきた死刑囚が大幅に減少するほか、経済的
に豊かになった国内患者への移植の急増も背景にある。
≪批判意識し対応≫
中国の高強・衛生相は8月末に訪中した川崎二郎厚生労働相(当時)と会談した際、中国の臓器移植に関する
日本を含めた海外の報道に懸念を示し、「レベルを上げた新たな条例をつくる」と表明。外国人への臓器移植制
限は、国際社会の厳しい批判を意識した措置であるのは確実だ。
黄潔夫・衛生次官も11月、臓器移植は中国国民を優先し、旅行目的で訪中した外国人は移植を受けられない
と述べた。衛生省は「世界保健機関(WHO)の移植指導原則と医師の自律を重視する」として厳格化方針を示した。
移植医療の最先端施設、天津第一中心病院の関係者は、「1月から外国人への移植が制限される。実施には
厳格な審査が必要となり、実施数は非常に少なくなる」と明かした。同病院では現在、日本、韓国、アラブ諸国な
どの患者が入院しているが、制限方針を受け、外国人を含めて80人以上の患者が待機中だ。
移植関係者によると、これまで日本人計250人以上の移植手術を実施してきた遼寧省瀋陽や上海の病院でも、
外国人への移植は既に制限が強化されている。日本人患者は今後、観光ビザを取得して手術を受ける従来の手
法が認められなくなるが、中国在住の外国人や外国要人は「例外」として移植を受けられるとの指摘もある。
≪基準重視へ改革≫
中国は米国に次ぐ世界第2の「移植大国」。外国人への臓器移植手術が来年1月以降、困難になるのを受け、
日本を含めた世界中から渡航する患者の間で混乱が起きることも予想される。08年の北京五輪を控え、国際基準
を重視する中国政府は、死刑囚の臓器を使った移植に対する全面的な改革を推進。移植医療関係者は「世界の
患者は既に東南アジアなど他国に向かっている」と指摘した。
「中国の死刑囚に政治犯はいない。犯罪分子が死後、自分の臓器を提供することで罪滅ぼしするのは奨励すべ
きであり、反対すべきではない」。黄潔夫衛生次官は11月、こう紹介し、死刑囚を利用した臓器移植を正当化した。
ただ、同月に最高人民法院(最高裁)の肖揚・院長は「死刑適用は慎重にも慎重を」として死刑の抑止を指示。
これは、年間数千人に達するともいわれる中国の死刑執行や、死刑囚を使った臓器移植に対する国際社会の非難
の声が高まったことへの反応との見方も強い。
中国では今年初め、臓器移植に関する不透明な実態を国際社会から批判され、外国人への移植手術をいったん
ほぼ中止。手術の実施を大規模病院に限定するなど、管理体制の強化を受けた6月前後に再開し、日本人患者ら
の移植手術も続いてきた。それだけに、今回の方針は「厳しい内容」(関係者)と受け止められている。
中国国内では年間150万人が移植手術を必要としているが、実際に受けられるのは1万人にすぎず、「今後は国
内向けもドナー不足が深刻化する」(医療関係者)のが現実。外国人はこれまで国内患者より高い費用を支払うなど
して優先的に手術を受けてきたが、移植関係者は「中央政府の方針があれば、手術費の欲しい医師も外国人に執刀
できなくなる」と指摘した。(北京 時事)
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【用語解説】中国の臓器移植
これまでに腎臓7万4000件、肝臓1万件など計8万5000件以上実施され、2005年は1万2000件以上と過去
最高を記録した。費用は米国などに比べて安く、日本のほか欧米諸国、韓国、インド、中東など世界各地から患者が
渡航している。今年7月に臓器売買の禁止を明記した管理強化規定を施行したほか、脳死基準を定めた「人体器官
移植条例(臓器移植法)」も近く公布される。(北京 時事)
ソース:FujiSankei Business i.
ttp://www.business-i.jp/news/china-page/news/200612290025a.nwc