【ワシントン=古森義久】北朝鮮の核兵器開発を阻止するための経済制裁の中でもぜいたく品
禁輸の効果が期待されているが、米国議会調査局の朝鮮問題専門官のラリー・ニクシュ氏は
金正日体制支持の基盤となるエリート層へのぜいたく品供与の大幅削減は中国が協力しない
限り、達成が難しいという分析を明らかにした。
ニクシュ氏は米国内の国際安全保障セミナーでこのほど個人の資格で発表した「北朝鮮
内部の評価」という分析報告でこの見解を打ち出した。
北朝鮮では金正日総書記がその独裁体制を守るために労働党や人民軍の高級幹部の
エリート層に平均よりはるかに高い生活水準を保証し、外国製の高級な乗用車、衣類、
酒類、装飾品、化粧品などのぜいたく品を供与してきた。
ニクシュ氏の報告はこの中核エリート層を約5万人と推定し、金総書記は年間約1億ドル
の外貨を使って、ぜいたく品を同層のために外貨で調達し、金体制への絶対忠誠を固める
手段としてきた、としている。日本や米国はこのぜいたく品自体を禁輸したり、ぜいたく品
購入に必要な外貨の違法取得を阻止したりする制裁手段をとっている。その手段により
金体制に打撃を与え、核兵器開発の放棄を強いるという狙いだ。
しかしニクシュ氏の報告はこの制裁の狙いについて以下の要点を指摘した。
▽北朝鮮がぜいたく品の調達に絶対必要な外貨は近年は毎年、合法な輸出により約10
億ドル、非合法な武器輸出で約5億ドル、さらに偽造の紙幣や医薬品、麻薬などの密輸で
約5億ドルを取得してきたとみられるが、エリート層へのぜいたく品の供与の大幅削減を
迫るには制裁によって総計20億ドルの外貨収入を10億ドル以下に削る必要がある。
▽しかし北朝鮮、とくにエリート層にとっての外貨と消費物資の重要な源はなお中国であり、
中国企業の北朝鮮自然資源利用の「権利使用代」などとして多額の外貨を得てきた
(たとえば鉄資源開発事業への9億ドル、石油探査への5億ドル)
▽北朝鮮の消費物資は全体の90%近くが中国から入っており、そのなかには高級品も
少なくないため、金総書記はそれをエリート層のぜいたく品に替えることができる。
▽金総書記自身がスイスその他の外国の銀行に個人の秘密口座を持ち、総額40億ドル
にものぼる資金を保有しているため、いざという際にはこの秘密資金をエリート層への
ぜいたく品調達にあてることもできる。
ニクシュ氏は以上のような指摘に基づき、(1)米国や日本、さらには国連主体の経済制裁
だけでは北朝鮮の合法非合法の外貨収入を従来の半分以下に減らすことはまず難しい
(2)北エリート層へのぜいたく品供与にまで実効ある影響をもたらすには外貨収入の半減以上
の削減が欠かせない(3)外貨収入のそれだけの大幅削減には、どうしても中国の広範囲に
わたる協力が不可欠となる−という結論を打ち出した。
▲ソース:SankeiWEB(日本語)2006-12-04 08:46
http://www.sankei.co.jp/kokusai/usa/061204/usa061204000.htm