【朝日新聞】 トッド氏「核の偏在が恐怖、日本も保有を」 若宮啓文氏「核持てば中国も警戒を強めてアジアは不安に」[10/30]

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5Mimirφ ★
>>3の続き
●トッド「北方領土問題、高い視点から」
 若宮 ところでトッドさんはロシアを重視し、日ロ関係を良くすれば米国や中国への牽制(けんせい)になると書いてます。
 トッド 私はずっとそう言ってきた。ロシアは日本の戦略的重要性を完全に理解している。国際政治において強国は常に
均衡を求める。

 若宮 でも、日ソ国交回復から50年たっても北方領土問題が片づかず、戦略的な関係を築けません。
 トッド ロシアは1905年の敗北を忘れず、日本は第2次大戦末期のソ連参戦を許していない。でも仏独は互いに殺し
合ってきたのに、現在の関係は素晴らしい。独ロや日米の関係もそうです。日ロもそうなれるはずだ。

 若宮 日本は北方四島を全部還せと言い、ロシアは二つならばと譲らない。
 トッド では、三つで手を打ったらどうか(笑い)。

 若宮 そう簡単にはいきませんが、互いに発想転換も必要ですね。ロシアは中国との国境紛争を「五分五分」の妥協で
片づけました。
 トッド 解決のカギは仲良くしたいという意思があるかどうかです。北仏ノルマンディー沖にも英国がフランスから分捕った
島があるが、問題になっていない。地中海にあるフランスのコルシカ島は元々イタリアだったが、誰も返せとは言わない。

 若宮 日本と韓国の間にはもっと小さな島があり……。
 トッド それこそ「偽りのナショナリズム」。国益の本質とは大して関係ないでしょう。この種の紛争解決にはお互いがより高い
視点に立つこと。つまり共同のプロジェクトを立ち上げる。北方領土でも何かやればいい。
 若宮 トッドさんが平和主義者だということが分かりました(笑い)。

◆「非核」こそ武器に
 私のパリ訪問は、日ソ国交回復50周年の催しや日米シンポジウムに出席のため、モスクワとワシントンを訪れる道中だった。
トッド氏とは3年近く前に東京で会って以来だが、緊張を強いられた2時間。「皮肉屋のフランス人」を自称するだけに、あえて
挑発してくれたのかも知れない。
 核には格別に反感が強い日本だが、かつてソ連や中国に対抗しようと、首相が核に意欲をのぞかせた時代があった。岸信介、
池田勇人、そして最も米国を驚かせたのは佐藤栄作氏だった。
 中国が核実験をした64年、首相となった佐藤氏はライシャワー駐日大使に会うと核武装への意欲を語り、大統領と話し合い
たいと伝えた。大使は本国への報告で「容易ならない危険性」を指摘し、指導・教育の必要性があるとコメントをつけた(中島信吾
氏の「戦後日本の防衛政策」から)。何よりも核の拡散を恐れたのだ。
 米国が日本に「核の傘」の提供を確約し、日米安保体制を固めていったのはそんな経緯からだ。やがて核不拡散条約(NPT)
が生まれ、日本は米国の強い後押しで76年に批准。95年には条約の無期限延長にも応じた。唯一の被爆国として「非核」の
道を鮮明にしたのだった。

 ところがインド、パキスタンだけでなく、北朝鮮までが核実験。有力政治家が相次いで核保有の検討論を口にしたのもその
動揺からだ。根強いナショナリズムも底流にうかがえる。
 それでも変わらないのは、米国政府がそれを認めないということ。日本が核を持ちたいなら、米国と事を構える覚悟がいるのだ。
米国と距離を置くゆえに核の勧めを説くトッド氏は、実はその矛盾を突いている。
 一方で、「非核」の日本が問われているのは、果たして政府が胸を張ってそれを世界に訴え、国際政治のテコに使っているか、
ということだ。

 日本がイラク戦争を支持したとき、「もっと毅然(きぜん)としたら」と政府の幹部にただしたら、「フランスみたいに核を持って
ないからねえ」と答えたのを思い出す。
 私がトッド氏に反論しながら、どこか耳が痛い気がしたのは、そんな記憶のせいに違いない。

ソース:朝日 2006年10月30日
http://www.asahi.com/column/wakamiya/TKY200610300159.html