【朝日新聞】 トッド氏「核の偏在が恐怖、日本も保有を」 若宮啓文氏「核持てば中国も警戒を強めてアジアは不安に」[10/30]

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1Mimirφ ★
■核兵器 「帝国以後」のエマニュエル・トッド氏と対談

 今月はパリで行った対談を「風考計」の特別編でご紹介したい。相手は独特の視点で世界を読み解き、
著書「帝国以後」などで広く知られるエマニュエル・トッド氏。鋭く米国や中国を批判する彼は、何と日本に
「核武装」を勧めるのだった。刺激的な議論になったが、頭の体操だと思ってお読みいただきたい。

●トッド「偏在が恐怖、日本も保有を」 若宮「廃絶こそ国民共通の願い」
 若宮 いま、北朝鮮の核が深刻な問題です。
 トッド 北朝鮮の無軌道さは米国の攻撃的な政策の結果でしょう。一方、中国は北朝鮮をコントロールしうる
立場にいる。つまり北朝鮮の異常な体制は、米国と中国の振る舞いあってこそです。

 若宮 トッドさんは識字率の向上や出生率の低下から国民意識の変化を測り、ソ連の崩壊をいち早く予測
しました。北朝鮮はどうでしょう。
 トッド 正確な知識がないのでお答えできない。ただ、核兵器が実戦配備されるまでに崩壊するのでは……。
 若宮 でも不気味です。

 トッド 核兵器は偏在こそが怖い。広島、長崎の悲劇は米国だけが核を持っていたからで、米ソ冷戦期には
使われなかった。インドとパキスタンは双方が核を持った時に和平のテーブルについた。中東が不安定
なのはイスラエルだけに核があるからで、東アジアも中国だけでは安定しない。日本も持てばいい。
 若宮 日本が、ですか。

 トッド イランも日本も脅威に見舞われている地域の大国であり、核武装していない点でも同じだ。一定の条件
の下で日本やイランが核を持てば世界はより安定する。
 若宮 極めて刺激的な意見ですね。広島の原爆ドームを世界遺産にしたのは核廃絶への願いからです。
核の拒絶は国民的なアイデンティティーで、日本に核武装の選択肢はありません。

 トッド 私も日本ではまず広島を訪れた。国民感情はわかるが、世界の現実も直視すべきです。北朝鮮より
大きな構造的難題は米国と中国という二つの不安定な巨大システム。著書「帝国以後」でも説明したが、
米国は巨額の財政赤字を抱えて衰退しつつあるため、軍事力ですぐ戦争に訴えがちだ。それが日本の
唯一の同盟国なのです。
 若宮 確かにイラク戦争は米国の問題を露呈しました。
 トッド 一方の中国は賃金の頭打ちや種々の社会的格差といった緊張を抱え、「反日」ナショナリズムで国民の
不満を外に向ける。そんな国が日本の貿易パートナーなのですよ。
 若宮 だから核を持てとは短絡的でしょう。

 トッド 核兵器は安全のための避難所。核を持てば軍事同盟から解放され、戦争に巻き込まれる恐れはなくなる。
ドゴール主義的な考えです。
 若宮 でも、核を持てば日米同盟が壊れるだけでなく、中国も警戒を強めてアジアは不安になります。

 トッド 日本やドイツの家族構造やイデオロギーは平等原則になく、農民や上流階級に顕著なのは、長男による
男系相続が基本ということ。兄弟間と同様に社会的な序列意識も根強い。フランスやロシア、中国、アラブ
世界などとは違う。第2次大戦で日独は世界の長男になろうとして失敗し、戦後の日本は米国の弟で満足
している。中国やフランスのように同列の兄弟になることにおびえがある。広島によって刻まれた国民的
アイデンティティーは、平等な世界の自由さに対するおびえを隠す道具になっている。
 若宮 確かに日本は負けた相手の米国に従順でした。一方、米国に救われたフランスには米国への対抗心が強く、
イラク戦争でも反対の急先鋒(きゅうせんぽう)でした。「恩人」によく逆らえますね。
 トッド ただの反逆ではない。フランスとアングロサクソンは中世以来、競合関係にありますから。フランスが核を持つ
最大の理由は、何度も侵略されてきたこと。地政学的に危うい立場を一気に解決するのが核だった。
>>2以降に続く

ソース:朝日 2006年10月30日
http://www.asahi.com/column/wakamiya/TKY200610300159.html