経済三団体恒例の夏の“勉強合宿”が、相次いで開かれた。財界人からは、小泉政権の構造改革路線の総括と、
ポスト小泉に向けた期待の声が出たが、小泉純一郎首相の外交政策には厳しい指摘も続出。
まだ見えない次期政権の新政策には、改革の“揺り戻し”を懸念する意見も目立った。 (経済部・斉場保伸)
◇限界
日本経団連の東富士夏季フォーラム最終日の二十八日夕方、静岡県小山町の経団連ゲストハウスの庭園には
立食パーティー会場が設けられていた。ヒグラシの鳴き声が静かに響く中、駆けつけた
小泉首相と経団連の企業トップらがテーブルを囲んでワイングラスを傾け、談笑していた。
経済界と太いパイプを築き、改革路線を推し進めたことを高く評価する声が
御手洗冨士夫会長(キヤノン会長)らから相次ぎ、首相は上機嫌。
だが、パーティー前に行われたフォーラムでは、小泉首相の外交路線を批判する声が続出していた。
副会長の渡文明新日本石油会長は
「外交が米国に偏りすぎている。中国との関係は早い段階で正常化の努力をしないといけない。
政冷経熱は限界が来ている」。草刈隆郎日本郵船会長も
「中国、韓国との関係改善なくして、日本がアジアでリーダーシップをとるのは無理がある。
民間だけでできるものでもない」と指摘し、次期政権に改善への期待感を高めた。
◇注文
今月決定した「骨太の方針2006」に呼応する財政再建路線の道筋では、消費税増税をめぐって
ポスト小泉政権に注文する声が相次いだ。
「増税なき財政再建」を掲げたのは経済同友会と日本商工会議所だ。
中小企業や商店主を傘下に抱える日商の山口信夫会頭は「価格転嫁が難しい」と
消費税率の引き上げには極めて慎重な姿勢。
「公務員人件費はさらに切り込める」と主張し、その後の財政赤字解消に向けた道筋も
「『まず消費税』ではなくて、いろいろなことが対象となる」と力説した。
経済同友会も、開催地にちなんだ「軽井沢アピール」の中で、
「公共事業費の縮減や地方交付税交付金制度の抜本見直し」を訴え、
増税なしで基礎的財政収支(プライマリーバランス)を回復させるよう求めた。
一方、経団連はこれらと一線を画し、「少子高齢社会に対応し、新しい財源が必要だ。
来年の御手洗ビジョンに盛り込むべく、精密な計算をこれからしたい」(御手洗会長)と
消費税率引き上げを念頭に置く姿勢だ。
◇後退
「改革路線に揺り戻しの気配が見えるのは極めて遺憾。ポスト小泉政権は改革に強いリーダーシップを」。
経済同友会の北城恪太郎代表幹事(日本IBM会長)はこう強調した。
経済同友会の諮問委員、柿本寿明日本総研シニアフェローは
「揺り戻しの最たるものが今回骨太の方針をまとめた態勢だ」と自民党が中心になって策定したことを批判。
副代表幹事の桜井正光リコー社長も「改革に揺り戻しがあってはならない。
首相主導の諮問会議で、トップダウン型が望まれる」と声を上げた。
党の了解を得ずに諮問会議で決定し、改革を推し進めたのが小泉流の運営スタイル。
財界首脳の中には「今回は党で自ら痛みを背負う改革案をまとめた。
どこまでできるのか、党の実行力も見極めたい」との声もある。
御手洗会長は「小泉首相は大統領制に近い形で構造改革を進めた。
次期政権には積み残した課題を実効あるものに、スピード感を持ってやってほしい」と注文。
経済界の視線は早くも総裁選レース後の政策運営のあり方に移っている。
ソース 東京新聞
http://www.tokyo-np.co.jp/00/kakushin/20060730/mng_____kakushin000.shtml