http://www.sankei.co.jp/news/060730/sha034.htm (動画あり 38.1MB 8:55)
★【人語り】偽札で笑う者許さぬ 松村テクノロジー社長・松村喜秀(57) 〔07/30 07:50〕
■東京・浅草橋の松村テクノロジーの社長室の壁には、木の皮に描かれた最後の晩餐(ば
んさん)の絵が掲げられている。毎週日曜日には、東京・横田基地内にある米軍教会でエル
ダーリーダー(長老=牧師とともに教会を治める指導者)も務めている。福島県内に購入し
た土地に、小さな教会と子供たちのためのキャンプ場、無料の老人ホームを造る計画も進
めている。年間3人程度の学生に返済不要で月額3万円を贈る「松村奨学金」を十数年続け
てきた。■敬虔(けいけん)なクリスチャンとしての使命感が、正義を求めたのかもしれない。
■「偽札を造った者が笑うというのは許せない。正義以外は許せないんです」■偽札鑑定の
第一人者。かつて世界に約700億ドルも出回った北朝鮮産の偽ドル札「スーパーK」も見破
った。■昨年秋、米国は北朝鮮の資金洗浄(マネーロンダリング)に関係したとしてマカオの
銀行に金融制裁を科し、北朝鮮の資産を凍結した。その根拠となったのが偽札問題だった
。■ナチス時代のドイツを除いて、国家が偽札を造った事例はない。北朝鮮は約四半世紀
にわたって偽ドル紙幣を造ってきたとされるが、米政府は昨年11月、北朝鮮が偽造元であ
ると断定した。その立役者の一人が、松村だった。
■元々は、大学で電子工学を学んだエンジニアだった。大手電機メーカーに就職した後、独
立して産業ロボットを製作していたが、ソウル五輪前の1987年に商社の依頼で偽札鑑別
機を開発した。独自に研究開発したセキュリティー技術を駆使した鑑別機は短期間で約20
00台を販売するヒット商品となったが、約2年で売れなくなった。「松村の鑑別機は偽造を通
す」という悪評が立ったためだ。■松村の、本格的な偽札との付き合いが始まった。■「鑑別
機の精度を上げるには、本物の偽札を手に入れ、その特徴を機械に覚えさせなくてはいけ
ない」■偽札を探して、東南アジアを放浪した。裏社会にも出入りした。ここと見定めて、カン
ボジアの売春宿に酒を手土産に通い詰めた。■「偽札を探している」■「そんなものはない」
■主人は一蹴(いっしゅう)したが、2日後、2万円と引き換えに4枚の百ドル札をくれた。こ
の紙幣を日本に持ち帰り、分析した。本物と見分けはつかなかった。コンピューターで畳10
畳分に拡大し、社員総出で調べた。2週間後、わずかな違いを見つけた。■「最初は印刷ミ
スと思ったが、偽札製造者が本物と偽物を判別できるように刻み込んでいた暗号でした」
■自らが名付け親になり、この偽札は「スーパーK」と呼ばれるようになった。「スーパーK」
は、70年の長きにわたってデザインを変えてこなかった米政府を新札発行に追い込んだ。
■この成果に改良を重ね、新たな鑑別機が完成した。さらに、世界各国の通貨に対応でき
る多通貨紙幣鑑別機も開発した。現在も月に500台から1000台が生産され、約7割が輸
出されている。そして世界70カ国の捜査機関や中央銀行が松村の鑑別機を頼っている。
(続く)