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アジアの米戦力静かに増強
狙いは中国の「敵対化」阻止
ビル・ガーツ ワシントン・タイムズ紙の国防担当記者で、国防総省人脈を生かしたスクープ記事を
書くことで有名。著書に『中国の脅威』『ビトレイヤル(裏切り)』(邦訳『誰がテポドン開発を許したか
−クリントンのもう一つの“失敗”』文藝春秋社刊)など。
――「対中ヘッジ戦略」とはどのような軍事戦略か。
米国防総省は基本的に、中国の戦略を逆に応用しているように見える。中国の戦略の骨格を定めた
のはトウ小平だが、彼は「韜光養晦」(とうこうようかい、目立たずに力を蓄えろの意味)の方針を示した。
つまり、軍備増強は露骨なやり方で進めるな、ということだ。
国防総省もこの戦術に倣い、アジア地域の戦力増強を静かに進めている。その目的についても、中国
だけでなく、北朝鮮や中東を念頭に置いたものであり、世界的規模で進める米軍のトランスフォー
メーション(変革・再編)の一環だと強調している。
アジア地域のトランスフォーメーションが完了すれば、米国は中国との紛争にも速やかに対応できる
非常に強力な戦力を保持することになるだろう。「対中ヘッジ戦略」の目標は、中国が敵対国になるのを
思いとどまらせ、紛争が発生した場合は、中国を速やかに打ち負かす能力を保有することだ。
――つまり、二段階戦略ということか。
そうだ。米政府内では現時点で中国を脅威とみる人は少数だが、国防総省は中国を友好国にも敵対
国にもなり得る「クロスロード(岐路)」にある国だと表現している。だから、友好的な方向へ進むよう中国
に影響を与えることが第一だが、敵対的な方向に進んだ場合、これを抑止できるように準備を進めてい
くということだ。
米軍は現在の兵力構成について研究を行い、今の態勢では中国を速やかに打ち負かすことはできな
いとの結論に至ったとみられる。これは極めて重要な研究結果だ。これによって、兵力構成を変えなけ
ればならないことを認識した。
――対中ヘッジ戦略を立案したのは、ラムズフェルド国防長官か。
そうだ。彼は「軍事力こそが平和をもたらす」という考え方を固く信じており、多くの場面で「弱さを見せ
ると、付け込むすきを与える」と語っている。彼がアジアへの兵力シフトをトランスフォーメーションの中
心の一つとしたのはそのためだ。
――ヘッジ戦略の具体的な中身は。
空母戦闘群や爆撃機をアジア方面にシフトするほか、同盟国などとの合同軍事演習も増やしていく。
また、部隊をより柔軟で使いやすくするために、兵力の移転も進める。米陸軍第一軍団司令部をワシン
トン州フォートルイスから日本に移すのはその一例だ。ハード、ソフト両面を含んでいるという意味で包
括的な戦略だ。
これらはヘッジ戦略の第一段階であり、数カ月前にブッシュ大統領も承認した。これで中国を友好国
へと導くことができなければ、国防総省は追加措置を講じるつもりだ。ただ、その中身は分からない。
――在日米軍の再編も、対中ヘッジ戦略の一部に組み込まれているのか。
そうだ。今は使われていないが、国防総省は以前、「リリー・パッド(蓮〈はす〉の葉)戦略」という言葉を
使っていた。蓮の葉戦略とは、海外に幾つかのハブを設け、そこを装備・物資の調達が可能な攻撃拠点
にしたり、他の場所に移動する中継点にする考え方だ。日本の米軍施設はアジア地域の中心的なハブ
の一つとなる。