http://www.asahi.com/paper/editorial20060630.html#syasetu1 ★金英男さん つくられた会見の悲しさ 〔2006年06月30日(金曜日)〕
■韓国から北朝鮮に連れ去られた金英男さん(44)が、28年ぶりに母親(79)と対面した。抱
き合い、涙にくれる年老いた母。生きて再び互いの肌のぬくもりを確かめ合った母子の、感激の
映像が送られてきた。■残念なのは、これが拉致という非道な犯罪に何の解決ももたらさないこ
とだ。■英男さんは、29年前に新潟から拉致された横田めぐみさんの夫だったとされる人だ。き
のう、北朝鮮側が設定した記者会見でこれまでの経緯を語った。■――自分は拉致されたので
はない。海水浴の際に海に流され、北の船に助けられて偶然に北へ来た。■北朝鮮は韓国人
拉致をいっさい認めていない。だからそう言わざるを得ないのだろう。北朝鮮の国内で、当局の
監視のもとでの言葉だ。英男さんに自由な発言を期待することに無理がある。■英男さんは2
年前、平壌でキム・チョルジュンの名で日本政府の代表団と会った人物に間違いないようだ。
彼は「めぐみの遺骨だ」と言って骨つぼを渡した。■しかし、日本政府はDNA鑑定で遺骨は偽
物という結論を出した。■「めぐみは病状が回復せず、結局、自殺することになった」。英男さん
は会見で北朝鮮の従来の主張そのままに語り、日本の対応を厳しく批判した。■ただ新たな根
拠を示したわけではない。それを信じろと言われても、説得力に欠けよう。まして生存を信じる横
田さんの両親には通用すまい。■日本人拉致を認めた北朝鮮は、もっと誠実に説明責任を果た
す義務がある。めぐみさんのことに限らない。ほかの被害者についても、まともに説明しようとし
ない不誠実な姿勢が、日本国内に強い不信感と怒りを増幅させている。■これでは国交正常化
といっても、世論に受け入れられない。英男さんを訪日させ、被害者家族らの疑問を直接受け止
めることも考えたらどうか。娘のヘギョンさん(18)も早く祖父母に会わせたい。■それにしても、
英男さんにとってもつらい人生だったに違いない。■韓国政府は英男さんを拉致被害者と認定し、
それを証言する北朝鮮の元工作員もいる。でも会見ではそれを自ら否定する。再婚して新しい
家庭もできた。だからあまり多くは語れないのだ。■同じ民族が殺し合った朝鮮戦争などで生き
別れになった離散家族は、南北に1千万人と言われる。離別の悲劇は拉致だけではない。それ
が、拉致犯罪に対する日韓の思いに微妙なずれを生じさせる。■犯罪を謝罪させ、犯人を処罰
し、被害者を帰国させる。日本では当然の要求であっても、韓国ではどうしても現実味に欠ける
と映るのだろう。正義はともかく、生きているうちに再会させることを最優先にせざるを得ない。そ
んな苦しい事情があることも受け止めたい。■拉致という国家犯罪が人々にもたらすさまざまな
過酷な試練。それを思うと、改めて怒りがこみ上げてくる。
【論説】金英男さん会見 これでは日朝国交正常化といっても、世論に受け入れられない 朝日新聞社説
http://news19.2ch.net/test/read.cgi/newsplus/1151615783/l50 >>313