【竹島問題】「実質的に取り返すことができないものに、感情論だけで対処するべきではない」 重村智計・早稲田大教授〔02/16〕

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竹島と日韓:2・22を前に/3 研究者レベルで対話/感情論で対処しないで /島根

◇研究者レベルで対話を−−升田優・県総務課長
日韓基本条約が1965年に締結され、日韓に友好的な関係が築かれた。一方、竹島は52年から韓国に実力支配され、
解決への進展も見られない。このままでは竹島問題が風化しかねない。こうした背景から「竹島の日」(2月22日)条例が制定された。
県にとって竹島は単なる領土問題ではない。問題が解決しないことで県民が不利益を被る。
最たるは漁業問題だ。竹島問題を前提とした上で日本海に日韓の暫定水域があるが、
漁法などルールの違いで実質的に日本漁船は漁ができない。
これまで竹島の領土権の確立を国に求め続けて来たが、日韓関係の中でずっと棚上げされてきた。
「北方領土の日」のように「竹島の日」を作るよう国に要望したが、国から具体的な反応は無かった。
条例は竹島問題について国民に啓発活動をすることも定めている。県は厳しい財政状況の中、
05年度に約1200万円の補正予算を計上し、「竹島問題研究会」を立ち上げた。
研究会は冷静に議論する土台作りとして設立した。日韓の主張の根拠を突き合わせ、歴史的、
国際法的に検証をしているが、この作業も県では今までしていなかった。外交交渉は国の問題だが、
来年度は韓国の研究者にも呼びかけ、研究者レベルで対話を進めたい。
国民に領土問題として竹島問題を啓発するのも本来は国の役目だ。
国に啓発のための組織を置くように要望しているが動きはない。県は限られた予算と従来の広報枠をフル活用し、
「フォトしまね」特集号で研究会の成果を広報し、山陰のテレビCMで竹島問題を啓発している。
新聞に投稿するなど県外向けの広報もしているが、国による啓発活動が必要だ。
条例制定後、竹島の記述がある教科書が増えるなど、一定の成果はあった。
今後も国に対して粘り強い要望を続けていく。【構成・久野洋】
 
◇感情論で対処しないで−−重村智計・早稲田大教授
島根県が「竹島の日」を制定したことは、地方自治体として当然の権利で問題はない。
しかし、条例制定の趣旨が、領土問題ではなく漁民の保護にあることを、
県知事や県議会がきちんと韓国側に対して説明すべきだった。
それを怠ったために「日本が再びわが国の領土を侵略する」という誤解が生じ、ボタンの掛け違いが起きた。
韓国がなぜ竹島問題に過剰に反応するか。それを知るためには歴史的背景に目を向けなければならない。
日本は、白村江の戦いや朝鮮出兵など過去5回朝鮮を侵略した。一方で朝鮮が日本を侵したことはない。
「日本はまた攻めてくる」というのは、彼らにとって当然の歴史的教訓なのだ。
島根県は「竹島問題の論点を整理、検証したい」というが、そもそも領土という概念自体が近代国家のもの。
これまでの文献では、竹島の位置や呼称すらあいまいで、領土権を裏付ける資料と呼ぶにはあまりに不十分だ。
仮に歴史的事実を両国で共有したとしても、歴史認識まで共有することは不可能だ。
伊藤博文を暗殺した安重根のように、日本ではテロリスト、韓国では英雄と評価が分かれる例は数多くある。
国際政治上、領土や島は「一度取られたら終わり」。サンフランシスコ講和条約後、標識を1本立てただけの日本と、
実際に人を住まわせた韓国との対応の差がそのまま表れている。軍事力の行使もできず、
実質的に取り返すことができないものに、感情論だけで対処するべきではない。
韓国には、中国、日本という大国の間で揺れ続けた「小国の悲哀」があることを理解すべきだ。
土地も資源もない竹島から得られる唯一のものは漁業権。領土権の主張はあくまで外交交渉上の記録にとどめ、
漁業問題の解決や、日韓共同の教育・研究の促進などの「実」を取るべき。
それが日本の国益という観点からも理にかなった外交ではないか。【構成・酒造唯】
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 ■人物略歴
 ◇しげむら・としみつ
 早稲田大国際教養学部教授、専門は国際政治、東アジア外交。元毎日新聞ソウル特派員。
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 ■人物略歴
 ◇ますだ・ゆう
 県総務部総務課長。74年に県職員採用、05年から現職。県の「竹島問題研究会」委員。

2月16日朝刊
(毎日新聞) - 2月16日16時1分更新
http://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20060216-00000252-mailo-l32