ベトナム戦争中、野戦病院に勤務し27歳で米軍に射殺された女医の日記がベトナムで
出版され、大きな反響を呼んでいる。極限状態でも豊かな感性を失わず、困難に懸命に
立ち向かおうとする姿から、「ベトナム版アンネの日記」との評も。これを機に、戦死した
若者らが戦場で書き残した日記の出版も相次いでいる。
▽孤独と不安
この女医は、ハノイ出身のダン・トゥイ・チャムさん。1960年代後半から中部クアンガイ省
ドゥクフォーの北ベトナム軍の野戦病院に勤務。70年6月、米軍の攻撃が近づく中、
動けない重傷の兵士とともに病院にとどまり、米兵に射殺された。
出版された「ダン・トゥイ・チャムの日記」には、死の2日前までの約2年間の日々が、
率直かつ繊細な筆致でつづられている。出版から約3カ月で30万部以上が売れ、ベストセラーに。
死にゆく負傷兵との会話。非人間的な爆撃への怒り。前線にいる恋人との別れの予感。
米軍部隊が迫る中、患者を残して逃げた共産党の政治委員への批判。「なぜ今、こんなにも
母の手が恋しいのだろうか」。日記は、助けが来ず孤独と不安に震える心を記して終わっている。
▽35年後に日の目
日記が35年後に出版されるまでの経緯も話題となった。
出版社などによると、当時、野戦病院を調査した元米兵フレッド・ホワイトハースト氏が、
日記を「資料的価値なし」として燃やそうとしたところ、ベトナム人通訳に止められた。
同氏は通訳を通じてその内容を知り感銘。日記を米国に持ち帰り、今年3月に保存のため
テキサス工科大に寄贈した。
米国人ジャーナリストが4月、日記を収録したコンパクトディスクをハノイに住むトゥイ・
チャムさんの母親に届けたことなどが、出版のきっかけに。10月上旬には母親が訪米し、
娘の日記を抱き締める姿がベトナム紙で大きく報じられた。
(略)
http://www.sankei.co.jp/news/051013/bun017.htm