【国内】「早急に結論出したい」 タイ人少女在留問題で法相[10/05]

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431新潮45 その6
◎「次はこの子の番」
 ブアチャンさんの話に納得できる部分は少なくない。ブアチャンさんの言い分は筋が
通っている、と思う。だが、ひとつ引っかかっていることがあった。実は、彼女がが日
本に連れてきたのは、メビサちゃんだけではないのだ。
 ブアチャンさんには三人の息子がいて、メビサちゃんの父ウィロートのほか、長男ウ
ィラット、三男ジャカパンがいる。ウィラットさんは二〇〇〇年に死去しているが、ジ
ャカパンさんは、日本の夫の養子となって来日し、日本で働いている。養父と同じ塗装
工だという。
 そしてさらに、メビサちゃんに続いてもう一人、日本に連れてこようといしている少
女がいるのである。
 ランプ―ン市に住むブアチャンさんの姉ポンシーさんはこう語っていた。
「死んだ長男ウィラットの一一歳になる娘も日本に行かせるつもりです。すでに養子縁
組もすんでいます。メビサの件が解決したら、次はこの子の番です」
 ブアチャンさんに聞くと、確かにそういう話はしている、という。
「私の希望としては日本へ来させたいよ。でも本人は来たくないといっている。ポンシ
ーも内心はあまり行かせたくないようだ。だから呼べないと思う。でも、私はメビサの
お父さんだけじゃなく、長男のウィラットにも何もしてやれなかった。あの子も荒れた
生活をして最後はエイズで死んでしまった。私が間に合ったジャカパンだけ。だから孫
たちにはできるだけのことをしたいのよ」
 ブアチャンさんが自分の血を分けた親族を呼びたいのはわかる。生活環境を考えれば
当然のことだろう。しかし次々と養子縁組をして日本に移住させようとの考えは、首肯
できるものではない。
 そもそもタイの劣悪な生活環境はタイ国政府が改善すべきで、その福祉の充実も、国
が責任を持って行うべきであろう。現在のタイには無理な注文かもしれないが、それが
不十分だから日本に求めるというのは、あまりに虫が良すぎる。
 それに劣悪な環境であっても、そこでは同じような環境でみんなが暮らしているのだ。
シリトゥンさんの一家にしてもポンシーさんの一家にしても、タイの田舎の一般的な家
庭である。特別に貧しいというわけではない。
 ブアチャンさんは日本での標準的な暮しを知ってしまったから、故郷を貧しく劣悪な
環境としか見られない。だが、現地ではそれはあたりまえではないのか。
「ランプ―ンではエイズでいっぱい人が死んでいるのよ。しかもみんな若くして命を落
としている。どうしてそんなところにメビサを戻せというの?あの町や家を見たのなら
わかるでしょう」
 ブアチャンさんは怒っていた。タイに住んでいることで、私にはその気持ちがある程
度わかる。