名張毒ぶどう酒事件

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49朝まで名無しさん
名張ぶどう酒殺人事件(概要)

 昭和36年3月28日夜、三重県名張市内のある集落の公民館で、「三奈の会」という
懇親会が行われた。その会合で出されたぶどう酒の中に有機リン系の農薬が混入されて
いた。そして、それを飲んだ女性5人が死亡、12人が傷害を負ったという事件である。
 この事件は、O(被告人)という男性が4月2日(この時点では被告人は身柄を拘束され
ていない〔逮捕は翌3日〕)に犯行を自白した。その自白によると、動機は、妻及び愛人
(いずれも本件で死亡)との三角関係を清算するために行ったとされる。(被告人は、
当時妻と愛人との三角関係にあり、そのことで妻と喧嘩をしていた。また、この関係は
集落内の噂になっていた。)
 被告人は捜査の最終段階で、真犯人は妻であるとして犯行を否認し、公判廷でも否認
を維持した。

一審(津地判昭和39年12月23日判時401号6頁)は、「無罪」。
控訴審(名古屋高判昭和44年9月10日判時576号22頁)は、原判決を破棄し「死刑」。
上告審(最高裁決定昭和47年6月15日判時669号101頁)は、上告棄却。「死刑」確定。

第5次再審請求〔特別抗告審〕(最高裁 第三小法廷 決定 平成9年1月28日)
http://www.courts.go.jp/hanrei/pdf/26102D0207E1CBCF49256A850030A93D.pdf
第6次再審請求〔特別抗告審〕(最高裁 第一小法廷 決定 平成14年4月8日)
(判時1781号160頁、判タ1087号106頁)は、いずれも抗告棄却。
刑訴法435条6号にいう「無罪を言い渡すべき明らかな証拠」に当たらないとした。
50朝まで名無しさん:2007/01/03(水) 15:46:05 ID:Gr8YM+Hz
一審(無罪)と控訴審(死刑)の判断

@被告人以外に毒物を混入できたかどうか
一審(津地判昭和39年12月23日判時401号6頁)は、ぶどう酒がA方に届けられたの
は午後4時前であり、被告人がA方に来るまでの間にも何者かが毒物をぶどう酒に入れた
可能性も否定できない。
控訴審(名古屋高判昭和44年9月10日判時576号22頁)は、ぶどう酒がA方に届けら
れたのは午後5時10分ころである。これを被告人が公民館に運んだ後公民館には多数の
人が来たのであるから、毒物を混入できる機会は、公民館にぶどう酒を運び込んで10分
ほど一人でいた被告人以外には考えられない。また、耳付冠頭・封緘紙・四つ足替栓が揃
って囲炉裏の間及びその周辺で見つかっていると言うことは、被告人の自白を待つまでも
なく、囲炉裏の間で毒物が混入されたことを示すものである。
A動機について
一審は、被告人と妻および愛人との関係は、殺害を決意するほど追い詰められたものでは
なく、本件犯行を敢行するに足りる動機があったとは考えられない。
控訴審は、被告人と妻および愛人との関係は、殺害を決意するほどに追い詰められたもので
あり、本件犯行を敢行するに足りる動機があった。
B自白について
一審は、被告人の自白は主要部分で信用性に乏しく、客観的証拠による裏付けがなく、ま
た、矛盾がある。
控訴審は、被告人の自白には信用性に疑いを差し入れる余地はない。
C4本足替栓について
一審は、被告人はぶどう酒の栓を歯で開けて農薬を入れたと自白している。そこで、発見
された栓について鑑定がなされているが、鑑定の結果を見ても、被告人の歯痕によるもの
とは断定できない。
控訴審は、ぶどう酒の栓の歯痕については、被告人の歯痕であるとの鑑定結果が十分に信用
でき、これに反する鑑定は採用できない。
なお、第5次再審請求で、歯痕鑑定については大幅に証明力が減殺され「被告人の歯牙に
よって印象されても矛盾はない」という程度の証明力しかないことが認められたが、これ
を除く証拠を総合的に判断すると有罪判決に合理的な疑いを生じる余地はないとされた。
51朝まで名無しさん:2007/01/03(水) 15:46:45 ID:Gr8YM+Hz
特別抗告審(第5次再審請求)と異議審(名古屋高決平成18年12月26日)の判断

@再審申立人以外に毒物を混入できたかどうか
特別抗告審(最高裁決定平成9年1月28日)は、本件ぶどう酒に有機燐テップ製剤が混入
したのは、本件ぶどう酒の製造過程や流通過程ではなく、c懇親会が開かれた本件事件当
日であったことは、関係証拠に照らし明らかである。新証拠を含む全証拠を総合的に検討
しても、本件ぶどう酒に有機燐テップ製剤が混入されたのは、本件事件当日で、かつ、公
民館の囲炉裏の間においてであったとする確定判決の認定は、正当として是認することが
できる。本件ぶどう酒瓶がいつd方に持ち込まれたかについて検討するまでもなく、申立
人以外の者は本件ぶどう酒に農薬を混入する機会がなく、その実行が不可能であったもの
と認められる。

異議審(名古屋高決平成18年12月26日)は、自白を除く、新旧証拠を検討する。
公民館いろりの間付近から発見された証拠物、その証拠物の形状、その他の客観的
事実によれば、ぶどう酒に毒物が混入されたのは、いろりの間付近と認められるが、
元被告以外にはぶどう酒に農薬を混入する機会がなく、その実行は不可能。証拠物の
状況からは、公民館での開栓が間違いなく最初の開栓であったことが認められ、
偽装的な開栓があったとは認められない。
52朝まで名無しさん:2007/01/03(水) 15:48:18 ID:Gr8YM+Hz
>>51の続き

A自白について
特別抗告審は、申立人の自白の任意性に疑いを生じさせる事由が認められないとした原決定
の判断は、関係する新旧全証拠を総合的に評価しても正当として是認することができる。ま
た、関係証拠によれば、申立人は、身柄が拘束される前に、捜査機関が既に入手していた資
料から創作できるとは考えられないような具体的な自白をしており申立人の自白の信用性を
認めた原決定の判断も、正当として是認することができる。

異議審は、自白は事件直後の任意取り調べの過程において行われたもので、自白を始めた当初
から、詳細でかつ具体性に富むものであった。元被告が勝手に創作したような内容とは到底
思われない。そしてその内容は、事件現場から発見された証拠物や客観的事実に裏打ちされ
ているもので、信用性が高いということができる。この判断は、新証拠を併せて検討しても
変わらない。