274 :
朝まで名無しさん:
控訴審(名古屋高判昭和44年9月10日判時576号22頁)
(三)〔証拠〕を総合すれば、
「(1)前記『三奈の会』の総会後に開催された懇親会に、女子会員用の飲み物として出さ
れたぶどう酒は、通称三線ポートワインの名称で呼ばれ、大阪市浪速区〔省略〕番地所在の
N洋酒醸造所ことN方において、昭和三五年一二月一七日タンクに仕込み、昭和三六年一月
一六日瓶詰され、名張市〔省略〕番地酒類販売業U商店を経由して、同年一月二〇日ごろ、
同市〔省略〕番地H酒店ことH方に卸された三〇本のうちの一本であって、前記『三奈の会』
の総会当日の午後右H方において、同人の弟の妻であるSから、A農業協同組合(以下、単
に農協と略称する)の職員であり、かつ『三奈の会』の会員であるIに対し一、八リットル
瓶入り清酒二本と共に売り渡されたものであること」
「(5)N洋酒醸造所製造のぶどう酒は、当時一ケ月約五、〇〇〇本位が出荷され、近畿地
方はもちろん、北陸、中国、四国方面で広く市販されていたが、同醸造所製造のぶどう酒に
よる中毒事件は、本件以外には一件も発生していないこと、がそれぞれ認められ」る。
(四)〔証拠〕を総合すると、
「有機燐のテップ剤は、それ自体としては極めて猛毒性を有しているが、水で希釈した場合
には、加水分解が速く、毒性が減弱して無毒化することが認められる。したがって、有機燐
のテップ剤のかかる特性と、前記(三)の(1)および同(5)記載の各事情を総合考察す
ると、原判決も認定しているとおり、本件ぶどう酒の製造過程において、同ぶどう酒内に、
ニッカリン・Tその他の有機燐のテップ剤が混入したものとは到底認められず、本件ぶどう
酒中の有機燐のテップ剤は、前記懇親会が開かれた昭和三六年三月二八日午後八時に比較的
近接した時刻に混入されたものと推認され」る。
275 :
朝まで名無しさん:2007/01/27(土) 16:59:49 ID:ROJDTJAY
第5次再審請求〔特別抗告審〕(最高裁 第三小法廷 決定 平成9年1月28日
>>175)
一 確定判決の有罪認定とその証拠関係
1 本件再審請求の対象である第二審判決(以下「確定判決」という)が認定した罪とな
るべき事実の要旨は、次のとおりである。
(一)申立人は、妻a及びbとのいわゆる三角関係の処置に窮した末、右両名を殺害して
右関係を一挙に清算すればすべてがすっきりするなどと考えるようになっていた折から、昭
和三六年三月二六日夜、aから、その居住する三重県名張市aと奈良県山辺郡a村にまたが
る地区の生活改善グループ「c」の年次総会が同月二八日に開催されることを聞き、その懇
親会の機会をとらえて、かねて買い受けて所持していた有機燐テップ製剤の農薬ニッカリン
Tを女子会員用の飲み物に入れて飲ませる方法を思い付き、同月二七日夜、自ら作った節付
き竹筒に右ニッカリンTを注入し、新聞紙でふたをして用意しておいた。
(二)申立人は、同月二八日午後五時二〇分ころ、右竹筒をジャンパーのポケット内に忍
ばせて、同会会長のd方に立ち寄ったところ、その玄関上がり口の小縁に、当夜の懇親会用
の飲み物として、一・八リットル入り瓶詰ぶどう酒(三線ポートワイン)一本(以下「本件
ぶどう酒」という)及び日本酒二本が用意されていることを知って、本件ぶどう酒内に所携
のニッカリンTを注入しようと決意した。
276 :
朝まで名無しさん:2007/01/27(土) 17:00:29 ID:ROJDTJAY
(三)そこで、申立人は、たまたま右dの妻eの依頼もあったことから、右酒瓶三本を一
人で携え、会場の名張市薦原地区公民館葛尾分館(以下「公民館」という)に運び、その囲
炉裏の間の流しの前の板敷きに置いたが、一足遅れて入ってきた同会女子会員fが雑巾を取
りにd方へ引き返し、公民館内に何人も居合わせなくなったすきに乗じ、妻a及びbを含む
女子会員らが本件ぶどう酒を飲み、そのためあるいは死亡するかもしれないことを十分認識
しながら、ひそかに、右板敷き付近において、本件ぶどう酒の包装紙を開け、その瓶の口に
装着されていた耳付き冠頭を火挟みで開け、更にその下に装着されていた四つ足替栓を、自
己の歯で噛んで開けた後、右瓶内に右竹筒内のニッカリンTを四ないし五CCくらい注入し
た上、四つ足替栓を元どおりかぶせ、包装紙で包み直して、元の場所に置き、同日午後八時
ころ、総会が終わり懇親会に移った席上に、右ニッカリンTの混入された本件ぶどう酒を出
させ、その全量を、その場に居合わせた女子会員合計二〇名の湯飲み茶わんに分けつがせて
これを飲ませようとし、その結果、本件ぶどう酒を飲んだa及びbを含む五名を殺害したほ
か、一二名には有機燐中毒症の傷害を負わせたにとどまり、残り三名はこれを飲まなかった
ため、いずれも殺害の目的を遂げなかった。
277 :
朝まで名無しさん:2007/01/27(土) 17:03:57 ID:ROJDTJAY
三 犯行の場所と機会に関する情況証拠
1 本件はぶどう酒瓶の中に有機燐テップ製剤が混入されたことによって生じた事件で
あるが、本件ぶどう酒に有機燐テップ製剤が混入したのは、本件ぶどう酒の製造過程や流通
過程ではなく、c懇親会が開かれた本件事件当日であったことは、関係証拠に照らし明らか
である。
2 犯行の場所
所論にかんがみその引用する新証拠を含む全証拠を総合的に検討しても、本件ぶどう酒に
有機燐テップ製剤が混入されたのは、本件事件当日で、かつ、公民館の囲炉裏の間において
であったとする確定判決の認定は、正当として是認することができる。その理由は、以下の
とおりである。
278 :
朝まで名無しさん:2007/01/27(土) 17:04:38 ID:ROJDTJAY
(一)本件ぶどう酒が瓶詰されていた一・八リットル瓶(名古屋高裁昭和四〇年押第二二
号の一。以下「本件ぶどう酒瓶」という)には、内栓として四つ足替栓、外栓として瓶口を
巻き四つ足替栓を上から押さえる耳付き冠頭がそれぞれ装着され、更に内栓の四つ足部分と
外栓の耳の部分を覆うように一枚の封緘紙が瓶口の周囲に巻かれて両端が貼り合わされて
いたものであるところ、内栓の四つ足替栓は、外栓の耳付き冠頭を外さなければ開けること
ができないし、封緘紙は、外栓の耳付き冠頭を外す際に破れる関係にあったことが認められ
る。そして、本件事件発生後に公民館の囲炉裏の間及びその周辺から発見押収された本件替
栓(押収日は昭和三六年三月二九日)、耳付き冠頭一個(同号の二、押収日は同日)、包装
紙の破片一枚(同号の三、押収日は同日)及び封緘紙の破片大小各一枚(同号の四、押収日
は大が同月三〇日、小が同月三一日)を調査するに、確定判決の認定するとおり、これらは
いずれもその印刷文字や模様等からみて、本件ぶどう酒と同一の醸造所で製造された同銘柄
のぶどう酒(三線ポートワイン)の瓶に装着ないし使用されていたものであり、とりわけ右
封緘紙の破片大と右封緘紙の破片小及び本件ぶどう酒瓶の瓶口に付着して残っている封緘
紙の破片とは、いずれもその破れ目が符合し、印刷文字や模様が連続していて、右各封緘紙
は元来は一体をなしていたものであることが認められ、加えて本件公民館周辺の徹底的な捜
索にもかかわらず、これら以外には、本件ぶどう酒瓶に装着ないし使用されたと思われる栓
や封緘紙等は発見されなかったこと、右栓や封緘紙等が発見された当時、犯人や犯行手段と
いった本件犯行の実態はほとんど未解明であり、捜査機関による作為の入り込む余地がなか
ったことは、関係証拠に照らし明らかなところであるから、右栓や封緘紙等はいずれも本件
ぶどう酒瓶に装着ないし使用されていたものと認めることができる。
279 :
朝まで名無しさん:2007/01/27(土) 17:05:12 ID:ROJDTJAY
(二)そして以上の事実に、前記耳付き冠頭の耳の付け根が鋭く切れ込み、耳の部分が右
切れ込み部分から持ち上がっていると認められることを加味すると、本件ぶどう酒瓶は、公
民館の囲炉裏の間付近において、何者かが耳の部分を持ち上げて右耳付き冠頭を開栓し、そ
の際、前記封緘紙も破れたものと推認される。しかも、本件ぶどう酒瓶は、本件事件当日の
夕刻、申立人により初めて公民館の囲炉裏の間に持ち込まれて以降、cの懇親会が開かれる
までの間、囲炉裏の間から持ち出された形跡のないことは、関係証拠により明らかである。
そうすると、内栓である四つ足替栓も、本件ぶどう酒瓶が申立人により囲炉裏の間に持ち込
まれた後、同室において、右耳付き冠頭に引き続き開栓され、その際、本件ぶどう酒に有機
燐テップ製剤が混入されたものと推認することができる。
三 所論は、本件ぶどう酒瓶が何者かによって別の場所で開栓され、農薬が混入されてか
ら、元どおりに栓を閉められ、封緘紙も貼り直された後に、公民館の囲炉裏の間において開
宴の際開栓されたと疑うことができ、現にc会員で自ら酒瓶の王冠を歯で開けたと供述して
いるjにより再度開栓されたとも考える余地があるから、前記のような間接事実から犯行場
所を特定することはできない旨主張するが、前記封緘紙の破片を調査しても、貼り合わせ部
分を貼り直した痕跡は認められないし、所論のように本件替栓や本件耳付き冠頭が二度開栓
されたことを疑わせる証拠はない。また、右jは、捜査の当初、自分の歯でぶどう酒のギザ
ギザになった口金を抜いた旨供述していたが、間もなく歯で抜いたのはぶどう酒の口金か日
本酒の口金かはっきりしない旨述べるに至っており、しかも、本件替栓は四つ足替栓であっ
てギザギザの口金はなく、右耳付き冠頭の金具には歯で開けたような痕跡は認められないか
ら、jが開栓したのはギザギザのついた日本酒の王冠であって、本件替栓や右耳付き冠頭で
あったとは認められないし、開宴の際ぶどう酒のふたを開けたと当初から供述しているdは、
その栓は替栓であり、手でねじって容易に開けることができた旨述べている。したがって、
所論は採用することができない。
280 :
朝まで名無しさん:2007/01/27(土) 17:06:13 ID:ROJDTJAY
3 申立人以外の者による犯行の機会
また、新旧全証拠を総合しても、本件ぶどう酒瓶が公民館の囲炉裏の間に持ち込まれて以降、
申立人以外の者が本件ぶどう酒に農薬を人知れずひそかに混入することは不可能であった
とする確定判決の認定は、以下のとおり、正当として是認することができる。(一)申立人
は、捜査段階の否認調書(昭和三六年四月二四日付け検察官調書等)において、c総会開会
中に便所に行った際、妻a(本件事件により死亡)が左手に本件ぶどう酒瓶、右手に白いも
ので包んだ瓶を持ってぶどう酒瓶に注ぎ込む格好をしているのを見た旨供述するが、第一審
では、aが囲炉裏のそばにいたのは見たが、瓶を触っているのは見ていないと供述を変更し
(第七回、第八回各公判期日)、原原審では、aが本件ぶどう酒瓶に何かを入れようとして
いるのを見たことはないと明言している(昭和六一年七月一五日、同年八月二八日)。しか
も、c総会出席者の供述を総合すると、aは、遅れて公民館を訪れた者に挨拶するため会場
から囲炉裏の間に出てきた以外、総会開会中に中座しなかったことが認められるから、aが
本件ぶどう酒に農薬を注入したものでないことは明らかである。(二)本件ぶどう酒瓶は、
申立人により公民館に持ち込まれてから、囲炉裏の間の流しの前の板敷きに置かれていたが、
c総会が開かれるまでは、そのすぐそばに申立人が座り、後記のとおり、fが公民館に戻っ
て以降、他の会員も順次囲炉裏の周りに集まってきて雑談していたこと、総会開会中は、隣
室の会場に着席した会員らから、本件ぶどう酒瓶の置かれた板敷き付近が十分見通せたほか、
遅れてきた会員らが会場に入るために順次囲炉裏の間を通る状況にあったこと、懇親会の準
備が始まってからは、囲炉裏の間で男女数人が立ち働きしていたことは、関係証拠から明ら
かであって、人知れず本件ぶどう酒瓶に近づき農薬を入れることは不可能であったと認めら
れる。ちなみに、総会出席者の中で、囲炉裏の間に置かれた本件ぶどう酒瓶にだれかが近づ
くのに気付いたと供述する者は、申立人以外にはない。
281 :
朝まで名無しさん:2007/01/27(土) 17:06:51 ID:ROJDTJAY
4 以上の事実を総合すると、本件ぶどう酒瓶が開栓され農薬が混入されたのは、確定判
決の認定するとおり、公民館の囲炉裏の間であり、したがって、本件ぶどう酒瓶がいつd方
に持ち込まれたかについて検討するまでもなく、申立人以外の者は本件ぶどう酒に農薬を混
入する機会がなく、その実行が不可能であったものと認められる。