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「真空地帯」は一九五二年二月、朝鮮戦争の最中に刊行された。作品に描かれ
たのは一九四四年(昭和一九)、戦争末期の大阪の部隊である。
兵隊たちが生活する場である内務班に光を当て、その過酷な初年兵教育の実
体を精細に描き出して、日本の軍隊の本質に迫っている。
三年兵がいる。二年兵がいる。彼らは古年兵と呼ばれ、年次の古いものは下
年次の兵に絶対的な権威を持つ。彼らは教育の名のもとに、初年兵を殴り、
蹴り、その他あらゆる陰惨な暴力をふるって服従を強要する。
初年兵はいたぶられ、侮辱され、いささかの抗弁も許されない。プライド、
自発性、人間的感情など、人間としての尊厳性を最後のひとかけらまで奪い取
られて、無意志的な、絶対服従の<兵隊>になる。