<<狂牛病関連情報蓄積スレ その11>>

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●BSE撲滅には長期戦 計画急ぎ、監視厳しく
 小沢 義博 国際獣疫事務局 特別顧問

 BSE(牛海綿状脳症、狂牛病)の根絶は、異常プリオンを伝達する汚染飼料を
最短でも8年間は完全に牛から排除しなければならず、想像以上に難しい。英国や
スイスなどもこれに失敗し対策の見直しを余儀なくされた。
 肉骨粉や獣脂は牛の成長や繁殖に必要な飼料として需要が強く、果樹園などの肥
料としても使われている。一方、BSE感染牛や肉骨粉の焼却炉の容量には限度が
あり、汚染飼料の保存や焼却にも巨額の費用がかかる。これらの不正処理や、闇市
場への流出を完全に阻止することは極めて難しい。日本が今、安易な対策を決めて
しまうと、不備が明らかになるのは5ー6年先であり、この失策による経済的損失
は数千億円規模に上るだろう。
 日本では廃用牛が行き場を失い不正に埋却されたり放置されたりしているが、こ
れは環境問題から許し難い。食肉処理場かで1頭でもBSE陽性牛が出ると大騒ぎ
になることを恐れて高齢牛の受け入れを拒んでいるが、これも安全対策の不備によ
るもので日本で特異な現象である。BSEのでた農家や病気の発見者を悪者扱いに
することや、いじめるのも日本独特で、モラルの問題である。この問題を早く解決
しないといつまでもBSEの実態がつかめず、国が対策を立てる上でも支障をきた
す。生産現場から食卓までの一貫した対策を立てることが重要である。
 一方、BSEの人への感染防止対策も日本は「欧州並み」といっているが、実情
は大変遅れている。欧州連合(EU)諸国は機械的に除去した肉や腸の使用禁止、
骨の使用を認めるかどうかなどを決めているが、日本では十分議論も説明もされて
いない。何が安全で何が危険なのかもっと国民に明解な説明が必要である。これが
牛肉ばなれの1つの原因となっている。
 欧州諸国からの教訓は、BSEの根絶は長期戦であり人のモラルとの戦いとなる
ことである。「性善説」は雪印の問題を見ても分かるように通用しない。日本は欧
州と同じ失敗をしないような完璧な長期計画を、時間と金をかけて早急に作る必要
がある。BSEの撲滅は、決められた規則や行政対策を100%守ることができる
かどうかにかかっている。
 したがって、関係省庁から独立した極めて厳しい監視組織が必要となる。監視す
る場所は農場、飼料工場、食肉処理場、食肉加工場、化成工場、輸入・流通業者、
医薬品工場、診断センターなどである。違反を証明する検査方法の確立と罰則を伴
う法律の施行も求められる。
 BSEや口蹄疫などの再侵入を防ぐ対策も重要である。これらの病気がワラや牧
草、飼料を通じて侵入した可能性を考えると、動・植物検疫システムの抜本的改革
が必要である。できれば、米国やオーストラリアのように動物・植物検疫を統合し
た検疫庁を設けるのが望ましい。同庁に情報収集課、貿易交渉課、リスク分析課、
危機管理課を新設して人事のタライ回しをやめ、各分野の本当の専門家を養成する
必要がある。
 グローバル化の時代には今までのような水際対策の強化だけでなく、海外に多く
の専門係官を派遣・駐在させ、その国の実情を理解した上でリスク分析や貿易交渉
をしなければならない。国際貿易にも「性善説」は通用しない。

2002年3月2日(土曜日) 日本経済新聞 時論