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○すべての発端は政府の無策
ただ、事はそう単純ではなさそうだ。中国地方の農協幹部が明かす。
「そもそも1頭4万〜5万円では安すぎるし、肝心なのは4頭目が出れば、廃用牛だ
けでなく県内すべての牛の価格が下がる被害が出ることなんです」
関東地方の農協幹部も同じ意見だ。
「私自身、廃用牛を検査に出していない。地域への影響は牛にだけでなく、野菜
や特産物などにも及ぶ」
政府が廃用牛を買い上げれば確かに、その分のカネは酪農家の手元に入る。ただ
し、牛肉として流通する前には検査が待つ。仮に、狂牛病への感染が分かれば、そ
れは産地とともに公表される。
廃用牛に対して、最初から肉牛として育てられた雄牛は「肥育牛」と呼ばれる。
現在、食肉用に年間130万頭の牛が出荷されており、廃用牛はそのうち4分の1にす
ぎない。おまけに価格は、肥育牛より2ケタも安い場合がある。そんな廃用牛に引
きずられる格好での、肥育牛の価格暴落は避けたいところ、と酪農家は思う。
遠藤副大臣は語る。「日本の全頭検査はBSEの症状が出る前の段階で判別ができ
る。それによりまず『安全』を確保し消費者への『安心』につなげる。このことを
酪農家にも理解してほしい」。
しかし、ようやく一息つきかけていた酪農家の緊張感は、先の雪印食品の詐称事
件により再び一気に高まった。今、4頭目の狂牛病が出たら消費者はもう牛肉に戻
ってはくれない、との危惧はますます強くなっている。それが、廃用牛まで含めた
全頭検査への恐怖をなおさらかき立てているのも事実だ。
中部地方のある酪農家は、先の会合で、力なくこうつぶやいた。
「廃用牛も含めて牛はみな酪農家にとって貴重な財産。家族も同然なんです。そ
う思う私の気持ちは今も変わらない。早くいつも通りの流通に戻ってほしい。そう
願うばかりです」
会合でのやり取りで、酪農家に消費者の視点が欠如しているのは見過ごせない問
題だ。ただし、狂牛病騒動は元はと言えば政府の無策、「臭い物には蓋」の体質が
招いたものだ。これ以上、消費者の不安を強めたり生産者を疲弊させたりしないた
めにも、改めて責任を明確にするところから出直すべきだ。
(杉山 俊幸、広野 彩子)