【社説】牛肉すり替え 国民への背信行為だ(東京新聞)
http://www.tokyo-np.co.jp/sha/ 雪印食品がオーストラリア産の牛肉を国産と偽って買い取らせようとしたことは、企業モラ
ルの域を超えた犯罪だ。消費者の信頼を著しく裏切った行為は厳しく糾弾されるべきである。
雪印食品の不正は、政府の狂牛病(BSE、牛海綿状脳症)対策を逆手にとっただけに極め
て悪質だ。国民のショックも大きい。
政府は昨年十月から、全国の食肉衛生検査所で、解体処理する前のすべての牛についてBS
E検査を行い、検査をパスした場合だけ牛肉として市場に流通させるようにした。これで一応
の安全性が担保された。
検査体制が整う前に解体処理された国産牛肉は、消費者の不安が根強く、冷凍保存されたま
まになっていた。このため、最終的に国が買い上げ、焼却処分することが決まった。
雪印食品は、この制度につけ入った。同社は、「関西ミートセンターが独断で行ったことだ」
と弁明しているが、果たしてそうだろうか。
不正工作についての情報は既に昨年、雪印食品本社に寄せられていたが、同社は十分な調査
をしなかった。危機管理体制が全く機能していなかったといえる。
食品は国民の健康に直接かかわるだけに、それに携わる企業、従業員には、一層高いモラル、
社会的責任が求められる。
だが、十人近い社員が得意先の倉庫会社で極秘に牛肉の詰め替え作業を行い、伝票の改ざん
までさせていた。不正工作を前にして社員の中でだれ一人止めに入らなかったことは、空恐ろ
しささえ感じさせる。
企業ぐるみとは言わないまでも、同社全体のモラルは著しく低下し、不正に甘い体質がトッ
プから末端まではびこっていたのでないか。食品を扱う企業としては失格である。
同社の親会社である雪印乳業は一昨年、不衛生な製造工程がもとで、戦後最多の一万三千人
余りが発症するという食中毒事件を起こし、幹部多数が業務上過失傷害などの容疑で書類送検
された。
事件直後、新聞紙上のおわび広告で同社は「お客様の視点に立ち、考え、行動すること」
「安全を提供しつづけること」を「基本理念」とすることを誓っている。
子会社の雪印食品がこれを知らないはずはない。今回の不正は、この誓いを自ら踏みにじっ
た自滅行為だ。そればかりか、牛肉のすり替えは、消費者が戻り始めた牛肉市場を再び冷えこ
ませることにもなりかねない。雪印食品は、こうした責任の重大さをかみしめねばならない。