敗軍の将、兵を語る 遠藤武彦氏(農林水産副大臣、農水省狂牛病対策本部長)
狂牛病騒動、危機感足りなかった
http://www3.ocn.ne.jp/~entake/html/kyougyuu_kiki.html ○「官の不作為」とも言われるが
狂牛病の発症を受けて、農水省の過去の対応についても、多くのご意見、ご批判を受けまし
た。結果 、発症を防ぐことができなかったとはいえ、農水省がどんな考えで対応してきたの
かを、私の分かる範囲でお答えしようと思います。
まず、1996年3月に英国からの肉骨粉の輸入を禁止し、その翌月、牛への肉骨粉使用を行政
指導で繋じたことについてです。行政指導には罰則規定にはありません。この農水省の対応が
甘かったとの指摘があります。
しかし、当時の海外における情勢を見極めながら、正式な技術的検討を経たうえでの判断で、
きちんとした手続きに則ったものだったはずです。
確かに農水省は今年9月、狂牛病の疑いのあることが分かった後、牛への肉骨粉の使用を罰
則つきで禁止しました。これと同じ対応を、どうして96年の段階で取れなかったのか。
背景には、次のようなことがあります。96年当時を振り返ると、あの頃は、規制緩和や行政
改革が強く叫ばれた時代でした。
とりわけ運輸省や農水省、厚生省なんかは規制が多いことで強い批判を浴びていたのです。
規制緩和と食の安全を天秤にかけたわけでは決してない。むしろ、そこまでの危機感がなかっ
た。そして行政指導でも、十分に酪農家などが対応してくれるものと考えたのでしょう。
もう1つ、よくご指摘を受けるのが、今年6月に農水省が「日本の安全性は高い」としたこと
です。
この時点までに、EU(欧州連合)の委員会から、「レベル3」という危険度評価の結果 が出
る可能性があったようです(編集部注:レベル3は「狂牛病の確認件数が低レベルか、未確認
でもリスクがある」とう危険度で、4つあるレベルの下から2番目。EUは、狂牛病の逆輸入を避
けるなどのため、各国に対する危険度評価をしてきた経緯がある)。
我が国は、国際獣疫事務局(OIE)という国際的な安全基準を採用しています。その基準と
EUのそれは、大きな隔たりがありました。無造作に両方を受け入れるようなことをすれば、混
乱が起こるだけです。
そこでEU側と話し合う中で、EUは評価を出さないことになった。しかし決して、EUの評価が
厳しいから、あるいは日本にとってはまずい判定になりそうだから、すんなり受け入れなかっ
たわけではありません。
むしろ問題なのは、基準がどう違うかということではなく、少なくともレベル3という危険
シグナルがあったのに、副大臣である私に報告が上がってこなかったことです。
EUから起こり得る可能性についての警告があったのなら、それをどう農水省の内部で危機管
理をするかが大切だった。そうすれば、もっと早くに日本全体の危機意識が醸成されたはずだ
と悔やまれます。
EUによると危険度評価と、96年の行政指導という2件はしかし、「官の不作為」と言われて
も仕方のないものだろうか。実際に起こってしまうと、ただ残念な思いばかりが募ります。