【社説】廃用乳牛*農家だけでは背負えぬ(1月16日)
http://www.hokkaido-np.co.jp/Php/kiji.php3?j=0032 狂牛病(牛海綿状脳症)問題のあおりで、高齢化により乳の出が悪くなった廃用牛の食肉処
理場への出荷が全国で滞っている。 廃用牛の市場価格は暴落し、埼玉県や熊本県では、廃用
牛を路上などに放置する「捨て牛」まで出る始末だ。 このままでは、酪農経営自体が成り立
たなくなる恐れすらある。農水省は、酪農家の苦境打開のため、抜本的な廃用牛対策を急ぐ必
要がある。
同省の推計によると、昨年十二月時点で食肉処理に回されず農家に滞留している廃用牛は道
内も含め全国で約四万四千頭に上る。 狂牛病確認前の昨夏までと比べ、廃用牛の市場価格の
道内平均は八万円前後から一万円程度にまで落ち込んでいる。 同省は廃用牛の出荷停滞を解
消するため、農協などに公営牧場や離農跡地を使って一時的に集中管理してもらい、必要な施
設改修費やえさ代、食肉処理場へ運送する費用を国が負担する約十一億円の助成策を決めた。
だが、これで廃用牛の食肉処理が円滑に進み、抜本的な解決策になるとはとても思えない。
廃用牛への不安がまったく解消されていないからだ。
乳用牛の雌は四、五回出産すると乳量が落ちることから、食肉処理場に出荷される。ただ、
カルシウム分補給などで狂牛病の原因とされる肉骨粉を与えられると、高齢になって異常プリ
オンが蓄積されている場合がある。 昨年九月以降に国内で狂牛病の感染が確認された乳牛三
頭はいずれも一九九六年の三、四月の生まれという共通点を持っていた。
酪農家が恐れるのは、自分の牧場から国内で四頭目の狂牛病感染が出ることだ。感染が確認
されれば、同じ牧場内の大半の牛が疑似患畜として処分され、その後の経営見通しが立たなく
なる。 道内の食肉処理場で処理される年間二十万頭近い牛のうち、廃用牛は八万五千頭程度
をも占める。 廃用牛を処理できなければ、牛舎がいっぱいになる上、雌子牛の導入もできな
い。廃用牛の問題はとてつもなく大きな重荷だ。
道は、飼育牛が狂牛病と確認された場合に農家に損失を補てんする保険制度創設を国に求め
ていく考えでいる。 国は、これらを含め、廃用牛の処理に苦しむ酪農家への抜本的な経営安
定策を講じるべきだ。
狂牛病の国内感染は、農水省の行政の不手際が大きな原因となっている。抜本策は感染源の
究明にあるが、事後対策にも万全を期したい。 それが行政のせめてもの罪滅ぼしというもの
だろう。 《北海道新聞 1月16日》