▽牛肉不信 募るいらだち (朝日新聞)
http://mytown.asahi.com/saitama/news02.asp?kiji=2256 ■行政無策に嘆きの農家
BSEをめぐる騒ぎが発生した直後、県が主催する説明会が畜産、酪農家を集めて県北で何
度か開かれた。「お前らがいつまでもだらだら牛を飼っているからだ!」
ある会合で畜産農家が酪農家に罵声(ばせい)を浴びせる一幕があった。
乳牛は出産し、乳が出る限り5、6歳まで飼育することが珍しくない。BSEも同じ年ごろ
の牛が一番発病しやすい。酪農家に浴びせられた言葉は、黒毛和牛、和牛と乳牛をかけ合わせ
たF1(エフワン)を生後30カ月前後で手放す畜産農家のBSE問題に対するいらだちを表
していた。
犬と猿。深谷市の須藤久男・肉牛肥育振興協会長は酪農家と畜産農家の関係をそう表現する。
須藤会長は約800頭の黒毛和牛を飼育している。ブランド牛の深谷牛だ。94年から市内の
畜産農家が手を組み、えさの統一基準をつくるなどして手塩にかけてブランドを育ててきた。
「酪農家はうーんと乳が出るように脂肪分やカルシウムをふんだんにやったんだろう。こち
らのたんぱく源は大豆だけだ」
都内を中心に取引先が固まってきた時だけに、須藤会長の無念さは大きい。
溝が深まりつつある酪農家と畜産農家も、行政側に対してはそろって厳しく非難する。「こ
のままだと捨て牛が出るぞーと前々から話をしていた。行政機関にもどうにかしてくれと言っ
ていた。それなのに実際に出てからじゃないと動かない。行政はいつもその繰り返しだ。農家
の声はなぜ届かないのか」
3頭の捨て牛を預かっている県農林総合研究センター畜産支所(江南町)の職員が口にした。
「農家も悲惨だが、この牛たちは使われるだけ使われて捨てられた。一番かわいそうだ」
目の前では2頭の乳牛が互いに顔をなめ合っていた。3頭がどうなるかは熊谷署の捜査が終
わってから決まる。
◇ ◇
・捨て牛事件
昨年12月28日に乳牛2頭、29日に黒毛和牛1頭がともに妻沼町の利根川沿いで発見、
捕獲された。いずれも雌で5歳前後。引き取り手がいなかったため、現在は江南町の県農林総
合研究センター畜産支所が預かっている。牛が高齢のため処分に困った飼育農家が捨てた可能
性があり、熊谷署は動物愛護法違反の疑いもあるとみて飼い主を捜している。 (1/13)