【社説】狂牛病辞任/「組織」をいうなら大臣も 2001/12/26 (神戸新聞)
http://www.kobe-np.co.jp/shasetsu/011226ja9770.html 農林水産省の熊沢英昭事務次官が来年一月八日付で退任することになった。
武部農相は会見で狂牛病(BSE=牛海綿状脳症)問題による引責との見方は否定している
が、事実上、後手、後手に回った狂牛病対策の責任をとっての辞任である。狂牛病問題を担当
する畜産部長も同時に退職する。
熊沢次官は、英国で狂牛病が人間に感染する可能性があると発表された一九九六年、畜産局
長を務めていた。
当時、狂牛病の有力な感染源である肉骨粉の使用禁止を求めた世界保健機関(WHO)の勧
告を事実上、無視して、肉骨粉の法的禁止には踏み切らず、「牛には肉骨粉を与えないように」
と行政指導にとどめた責任者である。
この対応の甘さが国内での狂牛病発生につながったとの批判は根強い。
また、EU委員会が日本の狂牛病危険度について「感染の可能性がある」とする報告書をま
とめようとした今年六月、農水省の強い抗議で中止になった。この時も、熊沢次官は「日本の
安全性は高い」と繰り返し発言していた。日本で国内初の感染牛が見つかったのは、それから
わずか三カ月後のことである。
文字通り、狂牛病の予知、発生、対策とこの五年余りかかわっていてミスを重ねた責任は大
きいと言わねばならない。
狂牛病では、消費者の不安だけでなく、畜産農家や牛肉販売店、焼肉店など外食産業が経営
的に手痛い打撃を受けた。全頭検査の実施や肉骨粉焼却処理など国の対策費用は、今年度補正
予算だけでも一千億円以上の巨費がつぎ込まれている。
熊沢次官の引責辞任は当然で、むしろ「退任」などと体裁をつくろうのは、国民感覚に合わ
ないものである。
武部農相は狂牛病の責任問題について「組織全体として問われるべきだ」とする一方、自身
については「農水省が抱える諸課題を解決していくことが私の責任の取り方」とかわしている。
トカゲのしっぽきりとは言わないが、これだけの問題で、最高責任者が責任をとらずに、は
たして組織にしめしがつくのか。極めて甘い状況認識といわざるを得ない。雪印乳業など民間
企業の不祥事での責任の取りようを少しは薬にしたらいい。
薬害エイズ事件やハンセン病など、官僚が責任を取らないのは通説で、国民はよく知ってい
る。それをただすことができるのは選挙で選ばれた政治家しかおらず、それゆえに敬意を払わ
れているのだ。