▽【記者の目】狂牛病におびえる農家 感染可能性認めた対策に −− 三木陽介(前橋支局)
http://www.mainichi.co.jp/eye/kishanome/200112/27.html ◇「生産者責任」芽生える
群馬県宮城村で生産された乳牛から先月末、国内3頭目の狂牛病(牛海綿状脳症)感染が判
明した。畜産農家や村、県を取材し実感したことは、餌の選定から検査結果の公開方法まで「
上に言われるがまま」の上意下達の実態だった。狂牛病に対する無防備、無策ぶりで、不安を
感じているのは消費者だけでなかった。農協に追従していた農家も再度の感染牛判明におびえ
、出荷を控えている。恐怖心を抱く農家を、行政側は理解していないように思えてならない。
前橋市の北東、人口9000人弱の宮城村は、赤城山南ろくの丘陵に青い屋根の牛舎や銀色
のサイロが点在する酪農地帯。農業の粗生産額のうち約8割を畜産が占めている。
「肉骨粉という餌は、(1頭目の感染牛が)千葉で見つかって初めて知った」。狂牛病の感
染源とされる肉骨粉について、農水省が96年に使用禁止した事実どころか、存在すら知らな
かったと農家は口をそろえた。感染牛が見つかった酪農家も「肉骨粉は使っていない。餌は農
協に言われるままに買っていただけだ」と主張した。同村農協にしても「千葉の件で初めて肉
骨粉という言葉を知った」(幹部)という有り様。すでに英国で問題化していた狂牛病の情報
を自ら収集した形跡はない。
同省が肉骨粉の使用禁止を都道府県に指導した文書を入手して驚いた。A4判の紙1枚にわ
ずか6行。緊迫感はまったく感じられない文書で、県も「通知を受け、農家に対して講習会な
どを開いたと思うが――」(畜産課)と歯切れが悪い。
群馬県は食用牛の一斉検査が始まった当初、1次検査の結果を公表する姿勢も見せたが、結
局、国の方針(非公表)に従った。「検査結果を、いちいち公表していたら混乱を招く」(畜
産課)が理由だった。
指導する側のトップに立つ同省は一方的に「安全」を押しつけてきた。日本での狂牛病発生
の危険性を指摘した欧州連合(EU)の報告書を黙殺したことも判明した。
その結果、消費者の目は肉骨粉を使用していない肉牛にまで向けられ、牛肉離れが加速。県
内では3頭目の感染牛が見つかった5日後、枝肉価格(1キロ当たり)は前年の10分の1に
暴落した。