納豆、しょう油、ミソ、糠漬け、ワイン、チーズ、バター、そして私の大好きなカルピス−−。
これらに共通するものは何でしょうか?
そう醗酵食品です。醗酵するといい味になるわけで、世界中にすばらしい発酵食品がある。でも、
人間が醗酵してしまうとどうなるのか。そんな奇天烈な設定で、タイトルからして土肝を抜くのが、
栗田信の『醗酵人間』である。
今回取り上げる『醗酵人間』は、これまで取り上げてきた「有名大家の珍作、意外な作品」という
路線からは打って変わったものだ。編集部から難色を示されようが、一部の読者の皆さんに眉をしかめられようが、
どうしてもこの本を取り上げて、その魅力についてきっちりプレゼンテーションしたかった。
何しろ、『発酵人間』は、「戦後最大の怪書」ともいわれるほどの、ものすごくイカれた本なのだ。それでいて、
この手の本のマニアであれば皆が知っている、という意味では有名な本なのでもある。
いったい、どんな中身なのか。気になるでしょう?
SF珍本ベストテン
その前に、この本がなぜ一部のマニアの間で有名になったのか、そのきっかけを説明しておこう。
30年ほど前に「BOOKMAN」という、本好きのための雑誌の第16号で特集されたランキングに、
「SF珍本ベストテン」というものがあった。これは入手の困難さと内容の珍妙さ、そしてほんの僅かに
歴史的意義といった観点から選ばれたもの。そこに選ばれた数々の珍書、稀書を目の当たりにした当時の
若き本好き達は、自分達のちっぽけな常識では考えられないような珍無類SFの大海原に目を剥き、
更なる探書の旅路に出発する決意を固めたものであった。何を隠そう私も、その1人である。
SF珍本ベストテンにおいて、内容の荒唐無稽さから「戦後SF最大の怪作」との高い(?)評価を得ていたのが、
栗田信の『醗酵人間』であった。
http://toyokeizai.net/articles/-/32466