■批判封じる 空気怖い、精神科医・香山さん
事故の犠牲になった村田さんをたたえる安倍晋三首相の書状をどう見るのか。精神科医の
香山リカさん(53)に聞いた。
非常に違和感を覚えている。長嶋茂雄さんと松井秀喜さんの国民栄誉賞をはじめ、安倍首相
はことさら光の当たる場面に登場しようとする。その延長で、今回はヒューマニズムの感動に
自分の姿を刻もうとしている。
パフォーマンスだとの批判も想定しているだろうが、その声を上げると「長嶋さんを認め
ないのか」「村田さんの死を非難するのか」という議論のすり替えで、逆に攻撃に遭う。
微妙に、絶妙に批判しづらい対象を選んでいる。本来は短絡的な賛成反対では語れないこと
のはずなのに。
深読みかもしれないが、自己犠牲を推奨し、誰かのために命を省みないことを全面肯定して
いるかのようだ。両親からすれば「生きてほしかった」と思っているだろうし、救助自体にも
多様な意見があってしかるべきなのに、そういった議論を封じ込めてしまう。
政府は本来、事故防止など現実的な方向を示すべきなのに、精神論に入っていこうとする。
「こうあるべきだ」という規範を押し付けようとする空気が怖い。
ご両親にしたって、悲しくてやりきれないだろうに、英雄視されることで、きちんと悲しめ
なくなるのではないか。それは戦争でわが子を失った親と同じ。死んでほしくなかったと言え
ない苦しみを与えてしまう。
いまの社会は、いつ自分が少数派になるか分からないという不安感がある。そこに陥るとは
い上がれないという恐怖から、多数派を見つけて、そこに属することで安心しようとする。
そういう意味では「今はこれが正しい」というトレンドをつくり出すゲームの中で、社会を
覆う不安感が政権運営に利用されてしまっているのかもしれない。
http://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20131005-00000018-kana-l14